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第1話。神を汚す名前 私、好きな人がいます、と少女はいった。 何故、私にそんなことをいうのだろう。ところが彼女は、 「私、好きな人がいるんです」 と、繰り返すのだった。 生贄の戯言になどのっていられない。 彼女は私の野望に捧げられる哀れな生贄に過ぎないのだ。 悩みの相談など柄でもなかった。捕食者と生贄。それ以上のつながりはない。 親でも親戚でも医者でもない。友達や恋人ではあり得ない。彼女の相談は唐突だった。 例えばこんなことを聞くのだ。 地球は丸いか? 「地球は円球かってこと……」 少女の声は透明でよく通った。 聖杯から賜った知識にある地球を思い出しながら、淫蕩な裸婦は聞き返す。 「そりゃ丸いわよ」 「違うんです……楕円(だえん)球」 知らなかった。 「楕円なのか? 正円ではなく」 「どっちがふくらんでるか、わかる?」 年甲斐もなく真剣に考え込んでしまった。 地球が楕円だとしたら東西南北どちらにふくらんでいるのか。 地球は北極から南極へと貫く地軸を中心に回っている。星をある程度柔らかい物体と考えたとしたら、どうだろう。 「東西にふくらんでるのかな」 「それじゃ……地軸が真っすぐだったら?」 地球は太陽の周囲を回る軌道に直立しているわけではない。 傾いている。確か二十三・五度だったか。だから昼と夜の時間に差ができ季節がある。すると、 「春夏秋冬がなくなるのかな。赤道近くでは常に暑く、両極付近では常に寒い」 「北極と南極は?」 質問の意図がよくわからない。黙っていると、少女は自問自答した。 「北極と南極では日が沈まないことになるの。太陽は昇りも沈みもしない。上半分だけ顔を出し、一日かけて一回りする」 もし地軸が真っすぐだったら、確かに極の天体状況はそうなるだろう。答えを聞いてから問いが理解できた。 彼女は独り言のように小さな声で、 「私……白い氷原の上に一人立っている。……見渡す限り氷の平原。 鈍色(にびいろ)の低い空。はるか向こうの地平線にはいつも太陽。 上半分だけ顔を出して……私の周りを回る。ぐるぐる、ぐるぐる回っている。一日中、一年中、いつも……いつも」 少し間をおいて、ぽつりと、 「住んでみたい」 極寒の地、奇妙な天体運動、一種の地獄ではないか。なのに、 「どうして? 何故そんなところに住みたいのかしら?」 少女は唇をうっすらと開けて顎を静かにそらした。 「だって、人がいないもの」 横顔を見る。 何もいえなかった。 長い睫(まつげ)が静かに上下する。少女はいつも横顔を見せていた。 笑わない。ほほ笑みさえないのだ。決して笑わず、横顔しか見せない少女だった――私にしてみれば。 彼女は日常生活からして異物だった。 日々の暮らしはぬるま湯に浸かるように過ぎる。 無数の蟲が這い寄る修練場を持っているのが間桐家である。 蟲倉と呼ばれているが、本来の魔術師に比べるべくもない。 その蟲の群れに、ひっそりと身を寄せるように君臨するのが彼女だ。 その姿は島に取り残された老人を思わせた。 修練場の壁板は湿気のため黒ずみ、もともとの色がわからない。 中に足を踏み入れると、肉の腐ったような臭いが立ち込める。 板張りの廊下は歩くと軋む。二階の天井も染みだらけだ。 リビングには誰もいない。いつも、そして今も。 私はだだっ広い部屋の中央に一人座り、ぼんやりと時間をつぶしている。 魔術の修行に勤しむ必要はほとんどない。ぼんやりしていること、それが私の主な仕事なのだ。 十代後半なのに老人のような毎日。希望を失くした自分にはちょうどいいのかもしれない。 昔、東京には空がないといった姉がいた。ほんとの空が見たい、と。私には本当の空は東京にあるように思えた。 しかしそこに空はなかった。魔術の修練に心と体を磨り減らしただけの日々だった。 望んだものは得られなかった。そこには何もなかったのだ。何を望んでいたのか、それすら今は覚えていない。 しかし、どんなものにも例外はある。 たまに、気分転換と骨休めということで定期的に休みを祖父からもらえる。 あの恐ろしい祖父でも、私に対する期待と愛情は持ち合わせているらしく 手厚いアフターケアを受けているのも妙な気分だ。 先日、寂れた版画展に気紛れに足を運んだときのことだ。 今日は他になにもすることがないので、私はここで時間をつぶす。五時で閉館だ。その三十分前に退館連絡の放送が入る。 〝■■版画展は午後五時に閉館となります。お時間までごゆっくりご鑑賞ください〟 すました女の声が館内スピーカーから流れた。 すると、彼が現れるのだ。 放送とほぼ同時に展示室に入って来る。他の客は全くいない。 展示室の中央には観客用の休憩コーナーがあった。正方形の革張りの黒いソファが、四つまとめて置いてある。 彼はそこに座る。私は時間を持て余す。このところいつも同じパターンだ。 頭の中は既に今晩の献立作業のことで占められている。帰宅後のほうがむしろ忙しい。 少女は自分だけの世界に入っている。 絵を見る人はみんなそうだ。はたから見ていると面白いくらいに≪自分――絵≫の関係が成立する。 他者の入り込む余地はない。むろん私の思惑など知るべくもなかった。 私は塔を見ている。 塔?……そう、バベルの塔だ。 『バベルの塔の崩壊』 画面中央に六層のバベルの塔が描かれている。ローマのコロッセウムを細長くしたような形だ。 空から光とともに天使の群れが舞い降り、ラッパを吹き鳴らし、塔を破壊している。 塔の右半分は積み木のように崩れ落ちていた。手前には群衆が描かれている。 驚く人、逃げ惑う人、嘆き悲しむ人、倒れ伏す人、様々だ。映画の一場面のような版画である。 説明的でつまらない絵だと思う。宗教に疎いせいか内容もよくわからない。 作品の良し悪しよりも、わかるわからないが先に来てしまう。絵の好き嫌いなど人それぞれだろうが、私は魅力を感じない。 わざわざ熱心に鑑賞するほどの作品とは思えなかった。 彼も塔を見ている。 美術に関心があるのかもしれない。 版画家を目指していて……この作品には専門家にしかわからない特殊な技術が使われており ……それを学ぶためにああして見ている……のだろうか。それにしては集中力を欠いている。 見るともなく見ている感じなのだ。あざとい解釈が正解とは思えない。ならば…… 見当もつかない。 彼女は版画をぼんやりと眺めている。 私は、彼をぼんやりと眺めている。 彼も、版画を見ている傍ら、自分をじっと見ている少女が気になり、それとなく観察していた。 彼女は濃紺のセーラー服を着ていた。少し光沢のある水色のリボンをしている。 襟の白いストライプが妙に鮮やかだ。展示室中央に置かれた制服のオブジェのようにも見える。 髪は蒼くストレートで肩くらいまである。目の上で、前髪が測ったように切り揃えられていた。 目は切れ長で奥二重だった。瞬くと眼球の形がくっきりと浮き出る。瞼(まぶた)が薄いのだろう。 きめ細かな肌をしている。この時期特有の張りがある。よく見ると顔の造りには古風さが漂っていた。なのに洋風なのだ。 博多人形の名人が作ったフランス人形のようなちぐはぐな美しさだった。虚弱な感じはしない。 しかしデリケートではかなげにもみえる。薄い布で宝石を覆ったような暗い輝きを放っていた。 私立穂群原学園の制服だ。版画展とは自転車で三十分くらいの距離か。 学校が放課後になってから間を置かず来たのかもしれない。高校生の年齢など見当もつかないが一年生ではないだろう。 大人びている。少女が彼(マスター)より年下には見えない。彼の交友関係など知らないが、二人は知り合いかもしれなかった。 私立穂群原学園は一学年三クラスの学校である。 空調の微(かす)かな音が響いていた。 閉館間際の展示室で、自分とセーラー服の少女だけが、五歩の距離を置いて、それぞれの椅子に座っている。 彼女の姿が一瞬、鏡をのぞき込む女の姿に見えた。 左の横顔を見せている。鼻梁(びりよう)が高い。背筋を伸ばし、行儀良く膝(ひざ)を揃えて座っている。 笑みはない。薄い唇を一本に結んでいる。冷たい。笑顔を想像できなかった。 少女は版画から目を外した。視線を泳がせる。周りの版画を見ているようでもある。 こちらを向くこともあった。特に意識したふうでもない。壁と同じなのだろう。五、六分もすると姿勢が崩れてくる。 両手を背の後ろに置き、体を斜めに伸ばす。スカートから膝がのぞく。靴を脱ぐ。椅子に横座りになる。 再び足を降ろす。白い靴下が床に触れた。片膝を立てる。太ももが付け根の辺りまで露出した。白い下着が見える。 しばらくそのままでいた。立てた右膝の上に両手を重ね、小首を傾げて、ぼんやりと絵を眺めている…… やがて再び両膝を揃えた。スカートが膝下まで覆う。靴を履く。 なんだか、ほっとしてしまった。 それにしても。 少女はどうして私を気にするようになったのだろう? まだ話したことはない。その必要もなかった。切っ掛けがない。 ところが何が切っ掛けになるかわからないものだ。 校章バッジが目に入ったのだ。初めて気が付いた。胸に校章がある……当たり前かというと、そうでもない。 最近バッジを付けている私立穂群原学園の生徒は珍しい。彼(マスター)でさえしていないのだ。 近所でもほとんど見かけなかった。反射的に声をかけてみる気になった。 腰を上げ、二歩近づいて、 「……きみ」 少女は横顔を見せたままだ。反応がない。 「きみは穂群原学園の生徒だろう。毎日来ているね」 椅子の上の学生鞄に目を遣って、 「学校帰りのようだが……」 彼女は唇をきつく結び顎を少し引いた。何だか愛想がない。 「……どうして私が気になるんだね?」 視線をバベルの塔の版画に飛ばしながら、 「あなたはその版画を熱心に見ていますね。気に入っているのか。 私に絵はわかりません。面白いとも思わないし……どうなんでしょうね」 横顔を改めて見直す。相変わらず自分一人しかいないような顔をしている。 「この版画展に理由もなくも来る人は珍しい。きみくらいのものだよ。 しかも興味があるのが版画ではなく私ときた。どうしてなんだろうね。部活か何かやっていないのかい?」 薄紅色の唇の端が少し上がっただけだった。言葉はない。私も口をつぐんだ。間の悪い沈黙を持て余す。 何をいってもほとんど反応がない。見ず知らずの男に話しかけられた女の子の反応はこんなものかもしれない。 明確な意図があって話しかけたわけでもない。だが、不快さも少し感じた。 腕時計を見ると、閉館まであと五分というところだ。話している場合ではない。 私も引き上げねばならない。試しに、必要以上に丁寧な口調でいってみた。皮肉に受け取られても無視されるよりはいいだろう。 「そろそろ閉館のお時間でございます。ご退出いただければと思います。またのご来館をお待ち致しております」 微動だにしない。依然として沈黙が支配している。腹が立つというより不可思議な気分だ。 「あの……閉館」 再びいいかけた。 少女はフッと息を吐いた。呼吸を感じたのはこの時だけだ。 吐息一つに飲まれてしまった。 人形が息をしたような感じなのだ。しかも…… 「あの……」 と、彼女はいった。透き通るような、耳に心地よい声だった。 彼女は顎を上げ、横顔を見せたまま、ぽつりぽつりと言葉をつないだ。 「あなたと、お話させていただいてもいいですか?」 私が黙り込む番だった。予想もしない角度からの質問なのだ。 少女は静かにいった。 「私……間桐桜です。あなたは?」 自己紹介されてしまった。お名前をいただき光栄だ、が、……あなたは?……だって? 初対面の子供からこんなふうに名前を聞かれたことはない。 それに初めて話す年嵩(としかさ)の男にむかってあなたは?と聞く子供も珍しい。 最近の子供は口の利き方を知らないといわれる。そうかもしれない。 しかしお忍びの王女から名前を聞かれたような甘美な感覚も少しはあった。 「私は……キャスターだよ」 ◇◇◇ 父の葬儀の1年前、私と姉は引き離され、私は別の家に引き取られた。 まったく会えなくなったわけではない。 まれに姉の姿を見ることがあるのだ。 無論、私たちはもう他所の他人。相互不干渉の掟によって固く禁じられており言葉を交わすことはなく 仲が良かった姉と、もういっしょに暮らせないという現実は、過酷な修練に加えて、私の心をいっそう暗く濁らせた。 代わりに新しく出来た兄は私に親切だった。 自尊心が高く、高慢でいつも私を見下していたが、いつも顔を俯かせる私の少しでも笑顔を取り戻させようと 休日にはよく遊園地やイベントに連れて行ってくれた。 子供の心のケアについて、児童心理学の本を読んだり、カウンセラーに相談したりして、いろいろ勉強もしていたようだ。 だが、理論と実践は違う。人の心はパソコンのプログラムのように、バグをちょっと修正すれば治るというものではない。 いくら心理学の理論を勉強したところで、深い傷を負った子供の心が、ドラマのように簡単に癒されるはずがないのだ。 実際、私はそれからずっと心的後遺症に苦しめられた。 義父親子に心を開かず、過剰なまでに行儀正しくよそよそしい態度で接し、めったに笑顔を見せなかった。 雨の音に異常におびえ、雷が鳴ると耳を押さえて部屋の隅にうずくまった。 雨の降る夜はなかなか眠れず、午前二時頃まで布団の中で悶々(もんもん)としていたこともよくあった。 夢もよく見た。悪夢の中で、私はあの修練場の出来事をリアルに再体験し、そのたびに泣きながら飛び起きた。 だが、悪夢は覚めればそこで終わりだ。むしろつらかったのは幸福な夢だ。 父や母が実は生きていて、私を迎えに来てくれるのだ。 二人とも元気な姿で、どこかに旅行に出かけていて難を逃れたとか、長く病院に入院していたのだとか説明する。 もちろん家も元通りになっている。私たちはまた家族四人で幸福に暮らせるのだ……。 夢から覚めると、私はとっくに両親の葬儀を済ませていたことを思い出し(夢を見ている間はなぜか忘れているのだ) 枕に顔を埋めてすすり泣いた。こんな意地悪な夢を見せるのはいったい誰だろう? 神様だろうか? 私をこんな目に遭わせておいて、まだいじめ足りないとでも言うのだろうか? これが天災であったなら、神様を憎み、怒りの言葉をぶちまけることで、生命の炎を燃え上がらせることもできただろう。 だが、私には憎しみをぶつけるべき相手がいなかった。 すべては不運な運命が生んだ悲劇だった。 もし私ではなく姉が選ばれていたら、もし父が間桐の申し出を断っていたら もし父の仕事が魔術師でなかったら、私はこの薄汚い蟲蔵に堕ちずに済んだだろう……。 責任があるとしたら、ただ一人、すべてを決定した祖父だけだ。 だが、怒りをぶつける対象としては、祖父はあまりにも遠すぎた。 不条理、という概念を、私は小学生にしてすでに理解していた。 この世界はドラマやマンガとは違うのだ。ストーリーが理想的に進行することなどめったにない。 善人が報われ、悪人が懲らしめられるとはかぎらないのだ。 どんなに善人であっても、何の落度もなくても、突然、何の伏線も必然性もなく、殺されてしまうことがあるのだ。 こんなことが許されるのだろうか? 世界がこんなでたらめであっていいのだろうか? よく人が言うように、この世界で起きる出来事のすべてが神の書いたシナリオ通りだとしたら 神というのはよほどボンクラなシナリオライターに違いない。 私は現実から目をそむけ、マンガやアニメに没頭した。 一見して荒唐無稽(こうとうむけい)に見える世界であっても、現実よりはずっと筋が通っていた。 たまに善人が殺されることがあっても、それはストーリー上の必然であり、その死には必ず何か意味があった。 意味のない悲劇などない。 主人公や正しい人々は最後にハッピーエンドを迎え、善人を苦しめた悪人は報いを受ける ――これこそ世界の正しいあり方ではないのか? 新しい学校でも、私はクラスに溶けこめず、いつも教室の隅で孤立していた。 無口でぼうっとしている変な奴と思われたに違いない。 睡眠不足のため、よく教室で居眠りをして、みんなの笑いものになった。 たまに口を開く時には、できるかぎり普通に目立たぬよう心掛けたが、それでも気味が悪われ、また距離を置かれた。 私の口数はますます少なくなった。 休み時間には図書館から借りてきた本に読みふけり、誰とも話をしなかった。 いや、誰とも話したくなかったから本に逃避していたのかもしれない。 お話に没頭している間は、つらい現実に向き合わずにいられたからだ。 素敵な物語がたくさんあったが、特にお気に入りは、ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』だった。 そうしたお話の影響もあるかもしれないが、いつしか私は、ある妄想に取り憑かれるようになった。 今、目にしているこの世界の方が夢で、夢の世界の方が現実ではないかという妄想だ。 私は自分の家で長い悪夢を見ているだけで、いつか目が覚めるのではないだろうか。 目が覚めればいつもの平凡な朝が待っているのではないだろうか。 家は元のままで、隣の布団には姉が寝ている。母は階下のダイニングキッチンでトーストを焼いて待っている。 父はコーヒーを飲みながら朝刊を読んでいる……。 私は心の中でその日を「目覚めの日」と呼び、ひそかに待ち望むようになった。 最初は一九九四年の八月三〇日だと思った。その朝がちょうどあの日から一年目だったからだ。 だが、八月三〇日の朝、私はやはり間桐の家で目を覚ました。 次は三月二日、私の六歳の誕生日だと思った。もちろん、その日も何も変わりはしなかった。 私は懲りもせず、何度も何度も「目覚めの日」を勝手に設定しては待ち望んだ。 無論、そんな幼稚な妄想が現実になるはずはなく、私の期待は裏切られ続けた。 一九九四年二月二七日。テレビは朝から悲惨な光景を映し出していた。大きなビルが倒壊し、街が炎上していた。 テレビに映し出された惨状や、刻々と増えてゆく死傷者数を見て、私は自分の体験を重ね合わせ、心を痛めた。 なぜこんなことが起きるのだろう? 神はなぜ、地震や大雨などの悲劇が起きないようにこの地球を創らなかったのだろう? それとも、亡くなった人たちは天罰を受けるような悪いことをしたというのだろうか? その一か月後、テレビはまた衝撃的な映像を映し出した。地下鉄から大勢の人が次々に担架で運び出される光景だ。 誰かが毒ガスを撒(ま)いたのだという。今度もまた他人事ではなかった。 惨劇のあった路線のひとつは、義父もよく使っており、時間帯がずれていたら巻きこまれていた可能性は充分にあったからだ。 その残忍なテロを行なったのが宗教団体だったと知り、私はますます困惑した。 宗教は人を幸せにするものではなかったのか? 神を信じ、心の平安を求めたはずの人たちが、なぜ罪もない人々を虐殺しなくてはならなかったのか? そして、全知全能であり、すべてを知っていたはずの神が、なぜこんな恐ろしい車件が起きることを許したのか? 神が彼らの暴走を阻止しなかったということは、それが神の意志だったということなのか? 私には分からないことだらけだった。 なぜ心を開いてくれないのか、と義父がぼやいたことがある。間桐の家に来て五年目、小学四年の時だった。 義父はかなり思い詰めた様子だった。 これほど君のために親身になってやってるのに、なぜいつまで経っても我が家に馴染んでくれないのか。 大変な修行をしていることは分かるが、いつまでも過去を振り返っていてはいけない。君はもうこの家の子供なんだから……。 私も鈍感ではない。義父の心中はそれなりに理解できた。 彼が自己保身と目先の小さな利益に意地汚く擦り寄る小市民であれど 理由はどうあれ、私のために尽力してくれていることも知っていた。 それでも彼らを愛することができなかった――いや、愛することを避けていたのだ。 私は怖かったのだ。 誰かを愛して、その人がまた理由もなく奪い去られたら――そう考えると、誰も愛する気にはなれなかった。 あんな体験は一度でたくさんだ。 そんなわけだから、私の表情はあの日以来、凍結していた。 誰も好きにならず、誰も憎みもしなかった。 プログラムされたロボットのように、決められた日常生活をこなしていたが、心の中は空虚だった。 喜びや悲しみを覚えるのは、本やテレビの中の出来事に対してだけで、現実世界にはまったく無関心だった。 同世代の子供たちと遊ぶこともなく、アイドルやファッションにも興味を持たず、勉強と読書にふけっていた。 おかげで学校の成績だけは良かった。 自殺も考えた。天国に行けば両親に会えるかもしれない。 どんな方法なら苦しまずに確実に死ねるか、子供なりに頭の中でいろいろシミュレートしてみた。 毒薬はどこで手に入れればいいか分からないし、首を吊ったり川に飛びこむのは苦しそうだし、手首を切るのは痛そうだ。 結局、高いビルから飛び降りるのがいいという結論に達した。 しかし、それを実行に移すことはなかった。 勇気がなかったせいもあるが、その頃すでに、私は神に対する深い不信の念を抱くようになっていたのだ。 神を信じられない者が、天国を信じられるわけがない。 中学に入学する頃には、さすがに私も「目覚めの日」を待つのをやめ、少しは現実と向き合うようになっていた。 ひとつのきっかけは初潮を迎えたことだった。 自分の体が大人になったこと、いくら現実を拒否しても時間は着実に流れていることを、痛切に思い知らされたのだ。 これほど強固な現実を突きつけられては、さすがに子供っぽい空想に逃避しているわけにはいかない。 私が変わることになったもうひとつのきっかけは、中学一年の夏、読書感想文を書くために読んだ一冊の本だった。 世界各地のかわいそうな子供たちの実態を紹介した本だ。 ルワンダの子供たちは民族紛争で親を奪われ、生命の危険におびえ続けている。 タンザニアにはゲリラに腕や脚を切断された子供がいる。 旱魃(かんばつ)に襲われたエチオピアの子供たちは、飢餓で苦しみながら、ひっそりと死んでゆく。 ハイチの路上で生活している少女は、日本円にして数十円という金で身体を売って、妹や弟たちを養っている……。 どこの国でも子供たちは犠牲になっている。 そんな事態を招いたのは、大人たちの醜い争いや、政治の失策、自然環境の変化などのせいで、子供には何の罪もないというのに。 彼らを救えないわけではない。 湾岸戦争の際に日本が出した金の数分の一でもあれば、何百万という子供を病気や飢餓から救えるはずなのだ。 だが、政治家たちはそんな目的のために金を使おうとはしない。 戦争のために使う金、住専のために使う金は、いくらでもあるというのに。 私は泣いた。そして、そのやりきれない想いを読書感想文にぶつけた。 今から思い返すと顔から火が出そうなほど青臭い文章で、恥ずかしすぎてここにその一部分を引用することもできない。 私は自分の体験を世界各地のかわいそうな子供たちのそれと重ね合わせ この世がどれほど不条理に満ちているか、それに対して子供はいかに無力であるかを訴えたのだ。 勢いで書いてしまったものの、それを先生に提出するべきか、さんざん迷った。 読み返し、何度も破り捨てようとしたが、別の感想文を書く気にもなれなかった。 結局、提出してしまったが、すぐに後悔するはめになった。 その感想文がコンクールで優勝してしまったのだ。 賞状と賞品(確か図書券だった)を渡され、先生たちからお褒めの言葉をいただいたものの、私はちっとも嬉しくなかった。 むしろ自己嫌悪でいっぱいだった。 他にも同じ本を読んで感想文を書いた生徒は大勢いたのだ。 二年生や三年生には、私より文章のうまい人もいただろう。それなのになぜ私の感想文が優勝したのか? 理由は簡単、私の上手くぼかした体験談が先生方の涙を誘ったからだ。 コンクールに優勝したいという気など毛頭なかったが、結果的に、私はアンフェアな手で他人を押しのけたことになる。 なんと卑劣なことをしたのだろう! 私は自分の不幸を武器に使ってしまったのだ。 だいたい、その本を選んだ動機が不純だった。 悲惨な境遇にいる子供たちの話を読むことで、「私よりかわいそうな人がいる」と、自分を慰めたかったのだ。 他人の不幸を見ることで安心したかったのだ――無論、そんなこと、感想文には一行も書かなかったが。 私は最低の人間だ。 その一件で私はすっかり気が滅入り、つくづく自分が嫌になってしまった。 賞を取った感想文は学校誌に載り、私も一冊貰ったが、目を通す気にもならず、本棚に投げこんでしまった。 そして、もう二度と自分の不幸を売り物にはすまい、他人の不幸を自分のそれと比較したりすまいと心に誓った。 しかし、悪いことばかりではなかった。その感想文を書いたおかげで、私は生涯の友とめぐり合えたのだから。 感想文が学校誌に載って何日か経った放課後、図書室で本を借りようとして、カウンターでカードを提出した。 すると二年生の図書委員が、カードに書かれた私の名前を見て、「ああ」と驚いたような声を上げたのだ。 「あんたが間桐桜さんなのかあ」 とまどっている私に、彼女は人なつっこい笑みを投げかけてきた。 髪を短くボーイッシュにしていて、私とは対照的な印象を受ける。 性格も正反対で、お喋りで快活な少女だった。 「あんたの感想文、読んだよ。すごく良かった。泣けちゃったよ、ほんと。あたしも書いたんだけどさ、かすりもしなくて」 私は恥ずかしいのと居心地が悪いのとで、「ありがとう」と小声で答えるのが精いっぱいだった。 早く本を持って退散したかった。だが、彼女はなかなか貸し出し期限のハンコを捺(お)そうとしない。 それどころか、私の顔を覗きこんで秘密めかした微笑みを浮かべ、いたずらっぽくささやいた。 「でもさ、ちょっとアンフェアだった……って思ってない?」 私はぎくりとした。先生にさえそんなことを言われたことはなかった。 みんな私の文章に素直に感動していた。たとえ「卑怯だ」と思っていても、口に出す者はいなかった。 私の心の中を見透かし、しかもそれを口にしたのは、彼女だけだった。 すぐに知ることになるのだが、彼女――美綴綾子は、他人の心を理解する天性の素質に恵まれていたのだ。 相手のちょっとした態度や言葉の端々から、隠された本音を直感的に読み取ってしまう。 それはほとんど超能力と言っていいほど鋭いもので、彼女の前では誰も裸同然なのである。 私には逆立ちしても真似できない才能だった。 「あ、やっぱり思ってたのか」 私のおどおどした態度を見て、綾子は屈託なく笑った。 「あんなお涙ちょうだいの文章書いといて、ぜんぜん後悔してないような厚顔無恥な奴だったら ブッ飛ばしてやろうかと思ったんだけどね。自分でも卑怯だと思ってんなら、それでいいや。 ま、そんなに悩むことないって。あんたの文章が良かったのは事実なんだから。 あんな奥の手使わなくたって、佳作ぐらいには入ってたよ」 彼女がハンコを捺すと、私は本をひっつかみ、逃げるように図書室を後にした。 私は彼女が怖かった。隠していた自分の心をあっさり見透かされてしまったことが、たまらなく恐ろしかった。 家までの道を歩いている間ずっと、胸の中には形のない不安がわだかまり、心臓を強く締めつけていた。 だが、自分の部屋に帰り着いた頃には、その不安はジーンという熱さに変わっていた。 不思議な心地好い熱さだった。私はベッドに横になり、本を広げ、彼女が捺してくれたハンコを見て涙ぐんだ。 ついに私のことを理解してくれる人が現われたのだ。 私が図書室の常連で、綾子が図書委員ということもあって、私たちはそれから頻繁に話をするようになった。 私たちは好きな本の話題でよく盛り上がった。無論、一対一のつき合いだったわけではない。 外向的だった彼女には何人も友達がいた。おまけに、しょっちゅうトラブルを起こしては、噂の的になっていた。 綾子は他人の心を裸にするだけではなく、自分の本音もおおっぴらにさらけ出すのだ。 誰かの言動が気に食わないとか間違っていると思えば、上級生だろうが教師だろうが、遠慮なくずばずばと指摘する。 それがたいてい正論なもので、相手はいっそう頭に来る。 購入希望図書のリストに文句をつけてくる学校側に頭にきて職員室にねじこんだとか 授業中に理科の教師の間違いを指摘したせいで (その教師は「地球は太陽の回りを回っているが、太陽は宇宙の中心で動いていない」と、トンデモないことを言ったのだそうだ) 授業を中断して大激論になったとか、武勇伝は数多い。 そんなわけだから、綾子をめぐっては、いい評判と悪い評判が半々だった。 彼女に好感を持つ者が多い一方、蛇蝎(だかつ)のごとく嫌い、悪口を言う者も少なくなかった。 しかし、彼女は周囲の評価などまったく気にせず、あっけらかんとマイペースで生きていた。 私はと言えば、彼女を羨望(せんぼう)の目で見ていた。 自分と他人を隔てる壁などないかのように、どんな人間にも裸でぶつかることのできる綾子。 自分が正義だと信じたことを貫き通す綾子 ――そんな彼女の痛快な行状に、心の中で拍手喝采(かっさい)を送る一方 自分にはあんな生き方はできそうにないと嘆息していた。 彼女に相談を持ちかけたことも何度かある。 中でも困ったのは、クラスの複数の男子から二か月間に三回もデートに誘われたことだ。 いかにも軽薄そうな男ばかりだったうえ、恋愛にはあまり関心がなかったので、いずれも丁重にお断わりした。 しかし、教室の隅で目立たない存在のはずの私が、なぜ急に男子から注目されるようになったのか、まるで見当がつかなかった。 「世間じゃあんたみたいなのが流行りなのよ」 綾子は笑いなが解説してくれた。 「綾波タイプって言うの? 無口で、ちょっと病的で、何考えてるか分からないお人形さんみたいな女の子。 男どもにしてみりゃ、ロボットみたいに言いなりになってくれる、都合のいい女に見えるんじゃないの? だから生身の女とつき合うのが面倒臭いような連中が、『こいつだったらいけるかも』って、寄ってくるわけよ。 あたしなんか逆。お喋りだし自己主張が強いから、男なんか寄って来やしない」 「でも、また誰かに誘われたら、どうすればいいのかな? 男の子たちの理想像に合わせてあげた方がいいのかな?」 そう言うと、綾子は一転して真剣そのものの表情になり、忠告してくれた。 「他人があんたをどう思おうと、それに振り回される必要なんてないよ。 他人のイメージに合わせて演技する必要なんて、ぜーんぜんない。あんたはあんたなんだから。 自分に素直に、本当にやりたいようにやればいいんだよ。そうじゃない?」 自分に素直に生きろ――ありきたりだが力のこもった忠告だった。その言葉に私はどれだけ救われたか分からない。 当然のことながら、私はいじめにもちょくちょく遭っていた。 無口で無抵抗だったものだから、うさ晴らしの標的としては絶好だったのだろう。 入学した直後から、同じクラスの女子から「のろま」とか「陰気臭い」と罵(ののし)られた。 上履きの中に砂を入れられたり教科書を隠されたりといった面白半分の嫌がらせも何度か受けていたが 肉体的な危害を加えられたことはなかった。 それが二学期の後半になって急にエスカレートした。 私が男子の注目を集めているのが腹立たしかったのか。 あるいは、例の感想文に含まれていた自己憐憫(れんびん)が、彼女たちのサディスティックな感情を刺激したのか。 いじめと言っても、昔の少女マンガにあるような靴に画鋲(がびょう)を入れる」などという他愛ないものではない。 廊下ですれ違いざまに蹴りを入れられたことがあった。 階段を降りようとしていて、強く背中を突かれ、転落しそうになったこともある。 私はさすがに身の危険を感じた。教師などあてにならない。 彼らは校内で露骨に行なわれているいじめを見て見ぬふりをし、何の対策も立てようとはしないのだ。 どうせ教育委員会には「我が校には何の問題もなし」と報告しているのだろう。 思い余って綾子に相談すると、あっさり「あんた、バカか?」と返された。 「あたしに何を期待してるわけ? あたしがウルトラマンだとでも思ってんの? ピンチになったら駆けつけてきてくれるって? 冗談じゃない! あたしだって自分の生活ってもんがあるんだから、四六時中、あんたを守ってなんかいられないよ。 そんな便利なキャラだと思わないで!」 そんなつもりで言ったんじゃ……と、しどろもどろに弁明すると、綾子はさらに追い討ちをかけてきた。 「だったら、あたしにどうしろっての? 『おお、おお、いじめられてかわいそうねえ、よしよし』って慰めて欲しいの? それで問題が解決する?」 彼女の口調は乱暴だが、言うことは常に正論だ。そう、慰めてもらったところで、何の解決にもならない。 自分でどうにかするしかないのだ。 三学期がはじまったばかりの頃、私の人生の転機がめぐってきた。 クラスの中でも特に性悪な三人の女子に呼び出され、校舎の裏に連れこまれたのだ。 用件はごくありきたりなもの――「金をよこせ」だった。 彼女たちは暴力で脅すだけでは飽きたらず、言葉で私の人格をさんざん傷つけた。 私の感想文を槍玉(やりだま)に上げ、「あんなもんで世問の同情が引けると思ったのか?」と嘲笑(ちょうしょう)した。 「むかつくんだよ、てめえみてえな優等生は」 「被害者ぶりやがってよ」 「てめえなんか、さっさと死んじまえよ売女」 その言葉に私は腹が立った。無性に腹が立った。なぜ世界はこんなにも不条理なのか? なぜ私はこんな目に遭わなくてはならないのか? 家を失い、両親を失い、そのうえどうしてこれほどまでに罵倒(ばとう)されなくてはならないのか? 私は何も悪くないのに。 そう、私は悪くない。間違っているのはこいつらの方だ――この世界の方なのだ。 その瞬間、何かが切れた。長いこと凍結していた感情が一気に溶け、熱い奔流となってほとばしった。 私は強烈に憎んだ。彼女たちを、この不条理に満ちた世界を、私を翻弄(ほんろう)する運命を ――そして何より、それらに安易に屈服してきた自分自身を。 私は今まで何を待っていたのだろう? 何のために耐えていたのだろう? いくら待ったって目覚めの日なんてくるはずがない。いくら耐えたって神様は助けてくれるはずがない。 もうたくさんだ、自分の不幸を隠れ蓑(みの)にするのは。 もうやめた、無抵抗で運命に流されるのは。現実から顔をそむけたりはしない。堂々と立ち向かってやる。 私はリーダー格の少女に吸収の魔術を行使した。というが吸収などという優しいものではない。 身体中の蟲たちを全動員して、力いっぱい吸い尽くしてやった。 私からこんな反撃が来るとは予想もしていなかったらしく、私の術は見事にヒットした。 彼女はよろめいてぶざまにひっくり返り、盛大に痙攣と汚水を垂れ流した。 「ふふっ、ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」 驚き、たじろいでいる他の二人に向かって、私は二本の指をVサインのように突き立て、低い声ですごんでみせた。 「どうしました?、そんなに怯えて。……ふふ、いまさら臆病風に吹かれた、なんて言わないでくださいね」 私の思わぬ豹変(ひょうへん)におびえ、性悪どもはこそこそと退散しようとした。 だが、私はもうとう逃がすつもりはない。 程なく彼女たちは泡を吹きながら、同じ無様な末路を辿らせてやった。 こんな簡単なことだったのか、と私は拍子抜けした。 綾子は話を聞いて素直に喜んでくれた。「やればできるじゃん!」と。 その事件以後、クラスの中での私に対する評価は一変した。「間桐はキレると何をするか分からない女だ」とささやかれた。 いじめはぷっつりとなくなったが、男子から誘われることもなくなった。 しかし、そんな些細なことはまったく気にならなかった。他人にどう思われようとかまわない。私は私だ。 魂を縛っていた重い鎖のひとつが切れた気がした。 完全にトラウマから解放されたわけではなかったが、ほんの少し、人生を歩む足取りが軽くなったように思えた。 ◇◇◇ 彼女は彫像のように動かなかった。 瞼を静かに閉じる。長い睫(まつげ)が影を落とす。一瞬、悲しげに見えた。 時計を見直す。閉館だ。しかし少女は動こうとしない。ふと時間が止まったような気がした。 広い展示室の中、姿勢良く椅子に座る少女を、二歩の距離で、ただ見下ろしている。 香りが漂ってきた。花を思わすような芳香だ。軽いめまいを誘うような、頭がぼんやりしてきそうな、そんな香り…… その時、後ろから声をかけられた。 「サクラ、何やってるんだ?」 彼女は相変わらずやって来た。 私たちは少しずつ話をするようになっていった。話といっても会話ではない。 ダイアローグがモノローグにしかならないのだ。かみ合わない。 サクラがほとんど一方的に話す。私は適当にあいづちを打つ。この年頃の少女が何に関心があるのかわからない。 芸能界か異性か、勉強かスポーツか……見かけは普通の女学生、むしろ「昔の女学生」だ。 古い型のセーラー服を着ているからそう見える。しかし私の生前の記憶から話題を連想することは難しい。 第一忘れている。結果として、こちらからは話を振れなかった。 自然と聞き役に回る。 この日は珍しく会話がある程度成立した。 私はサクラの左側に立って、肩にかかる切り揃えられた蒼髪を見ている。 彼女は中央のソファに座り、いつもの版画を見ながら、 「海に沈む夕日は大きく見えますか?」 「とても大きいね」 「何故?」 「……わからないな」質問の意味もわからない。 「朝日も天頂にいる太陽も大きさは全部同じ。なのに何故夕日は大きいんでしょう?」 少し驚いた。サクラがこちらの気持ちを汲んで答えてくれたのだ。珍しい。 普通の人との会話では意識さえしないことなのだが。 改めて少女を見直すと、ストレートの蒼髪が横顔をほとんど覆ってしまっていた。 「それは……比較するものがあるせいじゃないかな。天頂には比較するものが何もない。 水平方向には海とか山とか比較できるものがいろいろある。だから大きく見えるんじゃないか」 「大地のできもの、バベルの塔」 無視された。 いきなり話題を変えたらしい。むしろ鮮やかなくらいだった。 少しはコミュニケーションが取れ、私の解答も悪くはなかったかなと思ったとたんにこれだ。 サクラの目は正面の版画を捕らえている。そこには『バベルの塔の崩壊』があった。 それにしても…… 「できもの?」 「ある作家がいった。「地底の底から吹き出た奇怪なできもの」バベルの塔。エッセイで読んだの。 ブリューゲルの絵についての本。大地のできもの……私もそう思う」 ブリューゲルとは、誰だ? そもそもバベルの塔、とは? バベル。バベルの塔は旧約聖書の創世記に存在した神の領域を犯した塔だ。 少女はささやくように言葉を並べていった。 視線がさまよい、宙に浮く文字を読んでいるかのようだった。 「タワー……タワー・オブ・バベル……バベルの塔、それは天への塔、神に近づく塔、人の叡智(えいち)の結晶。 バベル……バラル……それは混乱、混乱の塔、だから倒れる。 ヤハウェ……神。ヤハウェは人々をたしなめた。シンアルの地、人々は集う。 天まで届く塔、建設、高慢な企て……不遜(ふそん)、尊大、傲慢(ごうまん) ……思い上がり、自惚(うぬぼ)れ、塔の建造、それは人々の奢(おご)り……能力過信。 神への挑戦、不遜、ヤハウェは言葉を混乱させた。バベル、それがバベル。 神の警鐘。だから塔は未完になった。未完成の塔。分散、人々も、言葉も……散り散り。四散、分裂、全地に放たれた。 バベルの塔の崩壊。元には戻らない。壊れた塔。再建しない……二度と」 巫女の神託を聞いているようだった。口を挟める雰囲気ではない。彼女はかまわず続ける。声は聞き取れぬほどに低い。 「見よ……彼らは一つの民で一つの言葉である。今に彼らに不可能はなくなるだろう ……下って行って混乱させよう。だからその町はバベル、と呼ばれる」 この子は……大丈夫なんだろうか? 少女はバベルの物語を語ったらしい。 人が天まで届く塔を建てようとし、神に罰せられ、世界に散らされた、ということくらいはわかった。 版画を見直す。天に届く塔にしては低すぎる。富士山より低いかもしれない。 確かに天からの攻撃で壊されてはいた。天使は神の使いだろう。塔は今まさに音を立てて崩れ落ちようとしている…… サクラはまだ口の中で何かいっていた。 世界……とか星という言葉が聞き取れた。何故か父……風や草……友達……自分とつぶやいたような気がする…… 何かに憑かれたような少女を現実に連れ戻したいと思った。 今引き戻さないとこのままどこかへ行ってしまうような奇妙な切迫感があるのだ。何でもいいから問いかけようと思い、 「バベルとバビロンは、同じなのかな」 間抜けな質問に、的外れな答えが返ってきた。 「バビロンの大淫婦(いんぷ)」 だいいんぷ? 淫婦に≪大≫が付くと奇妙な感じだ。ユーモラスでさえある。しかし少女は笑いのかけらもない冷たい口調で、 「水の上に座っている大淫婦……緋色(ひいろ)の獣の背に。 紫と緋色の衣……宝石と真珠で身を飾り立て……手には金の杯。杯の中には……」 少女は伏し目がちに、「忌まわしいもの、淫行の汚れ……」 しばらく息を止めている。 「水の上、バビロンの大淫婦、私と同じ……」 声に意志が戻っていた。こちらの世界に帰って来た感じだった。 サクラは天井の一角を見ている。澄んだ、しかし遠い目だ。手を伸ばせば届くのに、距離は遠い。 見えない空気の壁がある。人との交わりを拒む透明な膜。話に脈絡がない。掴めないのだ。 何故こうも自分の世界に浸れるのだろう。目の前に他人がいるのに。話しかけてさえいるのに。 今の女学生くらいの子供はみんなこうなのか。彼女だけが特別なのか。私が扱い方を知らないだけか。 無駄を覚悟で質問してみる。 「バビロンの大淫婦ってのは聖書の話かね」 「ヨハネの黙示録。その中のエピソード」 良かった。一応会話になった。 「「大淫婦」は悪役。ヒロインは「太陽をまとう女」。 この女はマリア。子供を身ごもってる。イエス・キリスト。太陽をまとう女を食べようと竜が襲いかかる。 七つの頭と十の角を持つ竜、そして赤い」 「赤い竜?」 「竜はマリアとイエスを襲う。その瞬間、神が救い出した。そして天の戦が始まる……」 知りもしない宗教の話にどうやってついていけばいいのか。しかしおかまいなくサクラは続ける。 聞かせることが目的ではなくなっていくのが、はっきりとわかった。 「大災害が起こる。神の怒りの洪水。そしてバビロンの大淫婦の登場。 水の上に座って。洪水の後でも生き残ってた……神の怒りも通じなかった。彼女を発見したのは、ヨハネ」 水面(みなも)に座っているというのも妙ないい方だ。浮くではなく座る。 大洪水の後水浸しになった大地。水面に座っている大淫婦。スケールが大きいうえにシュールなのでイメージが浮かばない。 そんな絵があったら見てみたいものだ。 その時。 突然サクラの様子が変わった。 視線が宙をさ迷いだしたのだ。迷走している。唇が少し開く。白い歯がのぞいた。息を止めている。不安になるほど、長く。 やっと……息を継いだ。ほぼ同時に言葉がこぼれた。低い声だ。 「私、好きな人がいます」 何故私にそんなことをいうのだろう。 相談相手としては不適格。”敵同士”なのだ。対応できない。やり方がわからない。 しかし彼女は繰り返した。 「私、好きな人がいるんです」 そして、俯(うつむ)いた。
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攻略チャート Part1 プロローグ~最初の洞窟までプロローグ 最初の町 最初の洞窟 攻略チャート Part1 プロローグ~最初の洞窟まで プロローグ することを記述 最初の町 することを記述 注意したほうがいいことなどは この形で書くと目を引きます 入手アイテム 場所 あいてむ1 宝箱 あいてむ2×2 宝箱(隠し) 最初の洞窟 することを記述 強調したい場合に下線や太字にする。 両方も可能 BOSS ??? 名称 HP 備考 洞窟の主 400 最初のボス。回復を忘れなければ大丈夫 詳細はこちら 入手アイテム 場所 あいてむ1 宝箱 あいてむ2×2 宝箱(隠し) あいてむ3 ボスドロップ Part2へ
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「はあ・・・だけどまさかこんな事になるなんてな・・・。」 二段ベッドの上段で寝っ転がっていた式が、 ため息を吐きながらそう呟いた。 話は数時間前にまで遡る・・・。 「式、いきなりで悪いけど緊急の依頼が入ったの。 直ぐに向かってもらえないかしら?」 コクトーの入れた茶を啜っていると、橙子の口からそんな言葉が飛び出した。 ここは東京のとある某所にある廃墟。 その中にある魔術師「蒼崎橙子」の工房兼事務所である「伽藍の堂」。 その一角にあるリビング・・・と言えるか どうか微妙な部屋に三人の人物がいた。 一人は蒼い着物の上に赤い革ジャンを着込み、 傍らには日本刀を立て掛けている中世的な美人「両儀式 もう一人は優しげで大人しそうな感じの、 前髪で左目を隠している青年「黒桐幹也」 部屋の奥のデスクに座っている、 オレンジの髪にメガネを掛けた女性がこの工房の主「蒼崎橙子」である。 「何だ橙子やぶからぼうに・・・。 そんなに大変な依頼なのか?」 俺は再び茶を啜りながら、聞き返した。 「いや、この依頼事態の難易度はそれほど高くないのよ、 だけど放って置くと後々厄介な事に成りかねないのよね。 だから、早急に行ってもらいたいの。」 コーヒーを飲みながら橙子はそう言った。 そこにはいつもの飄々とした表情は無く、 魔術師「蒼崎橙子」としての顔がそこにあった。 こんな橙子を見るのは久しぶりだな・・・。 メガネを掛けてるけど・・・。 「そんな面倒な依頼なら俺じゃなくて自分で行けば良いだろう。 その方が確実なんじゃないのか?」 俺は当たり前の疑問を言ってみたが、橙子は首を横に振った。 「私もそうしたいんだけど、 あいにくこっちも別の依頼で動かなきゃいけないのよ。 面倒くさいとは思うけど今回は折れてくれないかしら?」 ちっ・・・俺が折れるのは毎度のだろうが・・・。 しょうがない・・・やるしかないか・・・。 「わかったよ・・・。それで・・・その依頼で人を殺しても良いのか?」 「ええ、逆にそうしてくれると助かるわ。 それと・・・これが今回の依頼の内容と場所よ。 移動には私のバイクを使っても構わないわ。」 橙子から一つの封筒を受け取り、 立て掛けてあった日本刀を手に取る。 「式・・・気おつけてね・・・?」 コクトーがいつものように心配の言葉を掛けてきた。 「ああ・・・それじゃ行って来る・・・。」 俺は橙子のバイクを使って依頼の場所へと移動を開始した。 橙子から渡された封筒に入ってた指示に従って、 依頼の場所に到着したのはもう深夜の時間帯だった。 今回の依頼の内容は、ここ最近になって多発している、 連続殺人事件の解決だ。 俺が今いる場所の近くに、犯人と思われる奴のアジトがあると 書いてあるけど・・・。 改めて周りを見渡してみる。 周りの街灯のお陰でうっすらとだが全貌が見渡せた。 何かのビルを壊した後なのかまっさらな空き地が広がっているだけだ。 本当にここにアジトがあるか疑問に思うが・・・。 行く前に橙子から聞いた話じゃ今回の事件には、 魔術師らしき者が関わっているらしい。 もしそうだとしら後々面倒なことになる。 協会の連中が動き出すからだ。 橙子は協会から「封印指定」と言うものを受けているらしい。 もし連中が今回の事件の魔術師を処分するためにここ一帯を調べ始めたら、 流石の橙子でも隠れきれないらしい。 もし見つかるなんて事になったら無論連行されるし、 それに関わっている俺やコクトー、アザカにまでとばっちりが来る。 そうならないために橙子は今回の依頼を受けたらしいが。 まあ、俺的には殺し合いができればそれでいいんだけど・・・。 さてと・・・それじゃあとっととアジトを探し始めるか・・・。 そう思って周りを捜索し始めようとした時、 突然目の前の空間が歪み始めた。 「なるほど・・・一応情報は間違ってなかったようだな。」 俺は咄嗟に後ろに飛び、持っていた刀を鞘から抜いて構えた。 「さて・・・はた迷惑な犯人の顔を拝むとするか・・・。」 しかし予想を裏切って、歪みからは全く別の物が出てきた。 例えるなら薬のカプセルに触手が生えたような機械。 そんな物が計4体出てきた。 ちっ・・・生き物ならまだしも機械となると少し面倒だな。 「まあいい・・・今はただ目の前のこいつらを殺すだけだ。」 俺は一度目を閉じて自分流の切り替えをする。 そして目を開く。 そこには有機物や無機物に関係なく内包している、 「死」・・・「死の線」が現れた。 「お前らに見せてやるよ・・・。 生きているのなら神様だって殺してみせる力を・・・。」
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きっかけは一枚の写真だった。 それが全てだったのか、それとも原因の一つに過ぎなかったのか……それは今になっても分からない。 端から見てるヤツらには馬鹿な行為としか映らないだろうし、俺もそう思ったこともあったさ。 ……でも、あの時の俺たちは何も間違ってはいなかったと思う。 ……それだけは譲れない事実なんだ。 ある日の昼休み。俺たちの学校の中庭でそれは始まった。 「……おぉ」 「……これは……」 「……な?似てるだろ?」 ……確かに似てる。 「まさか、本人じゃないよな?これ」 それは谷口がコンビニで買ってきた漫画雑誌に掲載されていた。 「まさか。あの涼宮さんですよ?」 よくある、二回に一回は水着姿の女の人が表紙を飾るような漫画雑誌だ。 「……だな。例え借金まみれになっても、ハルヒがこの手の仕事をする姿は想像出来ん」 そこには、こんな文字が踊っていた。 『現役女子高生・鈴峰晴美~強気娘に恋をしよう~』 「にしても、似てるよなぁ……このグラビアアイドルと涼宮」 谷口がそう言うのも無理はない。正直言って、パッと見せられた時は俺でも信じたほどだ。 この手のグラビアにありがちな媚びた笑顔ではなく、相手を挑発するような不敵な笑みが、悪巧みをしている時のハルヒとダブってしまう。 ……しかし、これを見るとハルヒの笑みもエロく感じてしまうから不思議だ。 一人でそんな妄想に耽っていると、古泉が雑誌のページを捲った。 「ふむ、後半のページには少々扇情的なポーズもありますね」 ……なんだと? 「おぉ!これはいい!ヤベ、俺ちょっと……」 「……そういう生々しい発言はやめましょうよ、谷口君」 「……」 パラパラ…… 「……おい、キョン。何故ページを飛ばす?」 「……いや、ちょっと今週の『ホーリーワールド』が気になって……」 「……残念だな、今回は休載だ。さぁ、ページを戻せ」 「……あ、新連載の『5月のタイガー』を……」 目次、目次、と…………なんだよ!?なんで二人とも白い目で俺を見てるんだよ!? 「……古泉、こいつの行動をどう判断する?」 「はい。例え別人であっても涼宮さんに似ている容姿の女性が、男性から性の対象として見られるのが我慢ならないようですね」 「……中学生みたいなヤツだな……」 「はい。全く」 好き勝手に言ってんじゃねぇ!俺は人間ドラマ溢れる囲碁漫画が読みたいだけだ! 「はいはい」 「ツンデレツンデレ」 「くッ……!」 二人の冷ややかな視線を受けて、俺は雑誌を閉じる。表紙には例の娘の写真がデカデカと印刷されていた。 見れば見るほどハルヒに似ている……。 ……だが、やはり……。 「……しかし、アレだな」 「……やっぱりアレですね」 「……そうだな」 どうやら三人の見解は一致したようだ。 「「「こっちの方が胸が大きい!」」」 俺たち三人の声は見事にシンクロした。 「あ、やっぱりか?涼宮も小さかないけどなぁ……」 「……正直、これと比べるのはハルヒが可哀想だ」 「……ですよね」 胸のスペック的にはハルヒと言うより朝比奈さん(大)だな。 これで同じ女子高生だと言うのだから……全くけしからん! 「……何がけしからんのかしら?」 「……」 「……」 「……」 ……あっれ~?おかしいな?今妙な幻聴が聞こえたけど……。 「……はは」 渇いた笑い声を上げて、若干笑みを引き攣らせる古泉。そのこめかみには一筋の汗が伝っていた。 ……なんだよ?古泉?妙なリアクションやめろよ?まるで俺の後ろに鬼でもいるみたいじゃねぇか? 「……ごゆっくりぃ~!」 あ、コラ!逃げるな!谷口!元はと言えばお前が持ってきた雑誌が……! 「キョン~?団長様の質問を無視するとはいい度胸ね?」 「ひっ……!」 ……あぁ、分かってるさ。俺の背後で空気が歪むほどの殺気を放っているのが誰かなんてな……。 恐る恐る振り向いて、俺はそいつに声を掛けた。 「よ、よう……ハルヒ……」 「どうしたの?声が震えてるわよ?」 ……さて、一旦整理しよう。状況はこうだ。 我らが団長様にそっくりのグラビアを観賞して、更にデカい声で胸の大きさを比べていた。 …………うん、どう見てもアウトだな。 「一体、神聖なる学舎に何を持ち込んでるのかしら?」 ハルヒの怒りっぷりを見れば分かる。完璧に状況を把握されているらしい。 ……これは俺には手に負えんな……仕方ない、古泉! ハルヒの手綱捌きにおいてはかなり頼りになる、唯一の共犯者に視線をやると、既に耳打ち出来る位置までやって来ていた。 「……こういう時には意外と素早いのな、お前」 ただ、顔が近いぞ。 俺がそう言うと、古泉はいつものニヤケ顔をキリリと引き締めて、こう言い放った。 「……失礼、当然と言いますか、バイトが入りましたので僕はこれで……」 うん……いや、なんかそんな予感はしてたがな……。しかし、ここでこいつを行かせる訳にはいかない。今回ばかりは生命の危機すら感じてるんだ。 「しかしだな、古泉。たまには現実空間でどうにかしようとは思わないか?」 「ほう?例えば?」 「ここでハルヒの機嫌を直せば、お前たちはあのヘンテコな空間で命を賭けて戦う必要はなくなるということだ」 「……なるほど、一理ありますね。では、シミュレートしてみましょう」 『古泉君、キョンがあの雑誌持って来たのね?』 『はい、全くその通りかと』 『これは罰が必要ね』 『はい、全くその通りかと』 『この場合は極刑が妥当ね』 『はい、以下略』 「こんな感じですね」 「待て、それでは俺の命の保証がない気がするんだが……というか、持ってきたのは谷口だ」 「おや?僕がイエスマンに過ぎないことはあなたも知っているでしょう?僕には涼宮さんの言葉に頷くしか能はありませんよ?」 ……もしかして、俺がイエスマン呼ばわりしたことを根に持ってるのか? 「他に案はありませんね?では、僕はこれで」 「待ってくれ、見捨てないでくれ古――うぐっ!」 0円スマイルで立ち去る古泉を引き留めようとすると、いきなりハルヒに胸ぐらを掴まれ正面を向かされた。 「古泉君を巻き込むんじゃないわよ。どうせあんたが無理矢理誘ったんでしょ?このエロキョン」 ……見事な騙されっぷりだ……お前が将来あの手の男に引っ掛からないことを祈るよ。 しかし、このままでは俺一人が矢面に立たされる羽目になるので訂正だけはさせて貰おう。 「あのな、今回誘ったのは……」 「うっさい、エロキョン。言い訳するな」 「だから、取り敢えず話を……」 「変態」 「…………」 ……流石にカチンときたね。 なんだよ、古泉のことは勝手に信じる癖に俺の発言は全否定かよ。 「全く……こんな雑誌に載る馬鹿女のどこがいいのかしら……あたしでいいじゃない……」 「なんか言ったか?」 「変態は黙ってなさい!現実の女の子相手には何も出来ないヘタレの癖に!このムッツリスケベ!」 ――プチン、と堪忍袋の緒が切れる音を、俺は生まれて初めて聞いた。 「現実の女ねぇ……」 俺はわざとらしくハルヒをに視線をやり、くつくつと苦笑する。 「……何よ?」 「お前より、このグラビアの娘の方がいいな」 「何ですって!?」 「写真はお前みたいに口うるさくないからな」 人の話も聞かずに一方的にキレたりもしないしな。 「逆ギレする気?こんな馬鹿女のどこがいいのよ!?」 「こっちの方が胸もデカいからな!」 「な……!」 「見た目で選ぶ時に顔が似てたら、あとは……」 「…………」 「……って、おい?ハルヒ?」 「…………」 ……正直な話、こいつが世間一般的な女性のように自分のスタイルを気にするとは思ってなかったが……胸のことを言われた途端、ハルヒは黙ってしまった。 ……少し言い過ぎたか? 「…………」 「…………」 その余りの沈黙っぷりに俺が耐えられなくなった頃、 「……ふ……ふふ……」 ……ハルヒは静かに笑った。 「ふふふふふふ」 ……えーと、ハルヒさん?怒鳴って頂いた方が気が楽なんですが? 「……あたしをここまで怒らせたのはあんたが初めてかも知れないわ」 ……そんな誉れは全力で辞退させて頂きたい。 顔こそ笑顔だが、こいつの精神状態は誰に聞いても答えは一つだろう。もしこれで「嬉しそうですね」なんて答えるヤツがいたら、俺はそいつを自腹で眼科に連れて行ってやる。 ……これは謝らなければ、とんでもない事態になる。みっともなく土下座をしてでも今許して貰え! そう俺の本能が告げていた。 「あ、あの……ハルヒ……」 スマン、言い過ぎた!という言葉を続けようとして、 「どうしたの?何か言いたいことあるんじゃないの?」 その笑顔を見て固まった。 ハルヒは、あのグラビアみたいに不敵な笑みを浮かべていた。 そして、その笑みに凄惨な何かを感じた俺は、謝るどころか、声を出すことすら出来ず、 「……じゃあ、またね。キョン」 そう言って立ち去るハルヒを、ただ見送ることしか出来なかった。 ……俺はその後ろ姿を見ながら、この場にいない人間に対して一人で呟いていた。 「……よかったな、古泉。多分今日のバイトは長くなるぞ」 ……神人狩りのバイトが時給制かどうかは知らんがな。 ……これが、SOS団どころか色んな人間を巻き込んだ珍騒動の始まりだった。 続く
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『久しいな、古き友……アインヘリアル・イリアステル、竜王の娘よ』 「ええ、本当ね」 東方大陸の、どこかの荒野。そこに不思議な四つの姿があった。 一つは人間の少女。銀髪碧眼の、小柄な娘だった。 「……まさか、こうして貴方たちがもう一度揃うなんて、思ってもみなかったわ」 『言ってくれるな……。何より驚いているのは我ら自身だ』 三つはゾイド。虎の姿。それぞれが白、蒼、紅を纏った大型機。 「ふふ、そうね……。今の世で、こうしてオリジンが身体を保っているだけでも奇跡なのに」 『長くは無さそうだがな。時が来れば、我々は再び地の底へと還るだろう』 見る人間が見れば、これらの機体がそれぞれZOITEC、ZI-ARMSの新型機……ワイツタイガー、レイズタイガー、ブラストルタイガーであると気付くだろう。 「……それじゃあその時まで、思い出話に花を咲かせるとしましょうか?」 『……囲い込んで!! こっちの準備が出来る前にアレを発動されたら、一巻の終わりよ!!』 まただ。 (……また、この夢……) 夢だとわかって見る夢……明晰夢と言うらしい……の声。広がっている光景は、荒唐無稽なものだった。 無数の金属生命体の屍、その中に屹立する、黒い巨大な影。シルエットから、直立二足歩行の恐竜型に見える。 それを囲む、十数体のゾイド。種類はバラバラ。紅い虎が焔を吐く。白銀の龍が雷(いかづち)を落とす。蒼い虎が光を放つ。青と金の獅子が牙をむく。白い虎が、暴風を巻き起こす。 その中に居る黒い小さな竜、声はそこから聞こえる。 『……今よ! 位置を維持したまま押さえ込んで!!』 猛烈な光が、網膜を焼き尽くす勢いで広がり、そして……。 「……える、リエル!」 不意に聞こえた名前を呼ぶ声に、あたしは目を覚ました。 「あ……。おはよ、リオーネ」 「おはようじゃない、もうとっくに昼だ」 そりゃそうだ。昨夜は夜番で、寝に入ったのは夜明けの直前だったのだから。 「そう……」 さっきの夢を、ぼんやりと反芻する。ここ最近、急によく見るようになったものだ。 「またあの夢か?」 「ん……、多分、そうだと思う」 「夢もいいが、きちんと仕事もしてくれよ? リエル・フィアット」 こういう時にフルネーム呼びをするのは、彼の……リオーネ・フィンチの癖だ。彼なりに、あたしに気合を入れてくれてるんだと思う。 「……よーし、頑張りますか」 あたし達の仕事は、世間一般に猟兵と呼ばれる。依頼を受けて動く、現代の傭兵。 今回の依頼は、ブルーシティへと続く道に出没する盗賊団の討伐だ。 「やっぱ、これだとエサとしては小さいかな?」 『……かもな』 仕事に入って今日で三日目。あたしとリオーネは、その結論に達した。盗賊団に見つかるように、わざとグスタフを走らせる。積荷はそれっぽく偽装したあたしのゾイドなのだが、どうにも食いついてこない。 『俺らの情報が流れてるって事は無いよな?』 「……大丈夫だと思うよ」 根拠は無いけど、可能性はもっと無い。無い可能性を考えるより有る可能性を考えた方がずっと良い、と昔誰かから聞いたことがある。 『気楽な奴め』 「リオーネが神経質すぎるんだよ」 他愛無い会話を、コクピット越しに交わす。グスタフの操縦はリオーネだ。あたしは、愛機ハンマーロックのコクピットで揺られるだけ。 「ねえ、寝ても良い?」 『駄目』 む、即答された。 「なんだよー、寝不足は美容の大敵なんだぞー」 『今更そんなの気にしてどうする……』 リオーネは呆れ顔。実際、あたしも大して気にしてないんだけど。ただ、眠いのは事実。 「ねー、30分でいいからさー……」 『待て、リエル』 急に、リオーネの表情が引き締まった。こういう時は、何かが起こる。 『あれは……輸送キャラバンか? グスタフと、牽引式の大型キャリアー……』 「リオーネ、映像回して」 『おう』 程なく、ハンマーロックのモニターにリオーネから映像が送られる。質は悪いが、『音』も一緒に。 「……結構大物を運んでるっぽいね。少なくともコマンドウルフより大きい、けどライガー級じゃない……。ライトニングサイクスが近いけど、あのキャリアーは旧ヘリック寄りの奴だし……」 『新型の可能性アリ、ってか?』 「そゆこと」 って事はだ。もしかすると、いい具合にエサになってくれるかも知れない。 「リオーネ?」 『ああ、あのキャラバンを張るぞ』 以心伝心。自分で言うのもアレだけど、さすがに腐れ縁だけあって意見はすぐ一致する。 「りょーかいっ」 キャラバンを張り始めて30分もしないうちに、事が動いた。 「出たね」 砂中に隠れていたと思しき、ステルスバイパーとガイサック。合わせて10数機が輸送キャラバンに襲い掛かった。キャラバンの護衛をしていたゴドスが応戦するけど、先手を取られたのと数的不利が祟って防戦一方。一機また一機と、数を減らしていく。 『ああ。じゃ、こっちも出るぞ』 「おっけー」 光学迷彩が解除される。 「緊急起動シークエンス開始。メインエンジン始動、電源接続、手順7番から15番まで省略……ウェイクアップ!」 我流の始動方法でハンマーロックを起こし、荷台の幌を振り払って飛び出す。 「先行するよ! 火力支援よろしく!」 まずは賊の機体をキャラバンから引き離すのが先決。 「てえい!!」 こっちに気付いたガイサックに、上から飛び乗る。ガイサックはそれだけで脚部に重大な損傷を被ったか、その場に動かなくなった。 (……やっぱり、それほど整備状況が良くないんだ) 最初に『音』を聞いた段階である程度予想はついていたけれど、まだまだあたしの耳は絶対じゃ無い。確かめるに越した事はないのだ。 「つ、ぎ!」 動かなくなったガイサックを持ち上げ、盾の代わりにして数機からの砲撃をやり過ごす。もっともガイサックは脆いから、大して持ち堪えてくれなかったけど。 左肩のバルカンバッグで牽制しながら、キャラバンを背にするように移動する。賊の獲物……積み荷を背にしてしまえば、迂闊には砲撃できないはずだ。 予想通り砲撃が止む。 「そこっ!」 目の前でボケッと突っ立っていたガイサックを撃つ。うん、やっぱガイサックって脆い。 「っ、と!」 なんて考えてたら、横合いからステルスバイパーが飛び出してきた。けど、一瞬遅い。避けてしまえばそこにあるのは、無防備にお腹を晒した蛇の身体。 「南無三」 右肩の2連装ビームを至近距離。もちろん狙ったのは中央ブロック。そういえば以前の仕事で、中央より下のブロックを破壊したはいいが、そこから身体を切り離して上半身(?)だけで戦闘を継続しようとしたゾイド乗りとやり合った事もあったっけか。マニューバーリキッドが漏れて自滅したけど。 そんな事を考えているうちに、キャラバンとの距離は結構離れていた。賊の連中はまずあたしを片付ける事にしたのか、追う気配は無い。追えばいいのに。 「……リオーネ、トリカゴ!」 そしてあたしが発するのは、チェックメイトの言葉。 数瞬遅れて、四方から賊の機体に砲撃が降り注いだ。 「……危ない所を助けて頂き、ありがとうございました」 片がついて、あたしは先行していたキャラバンに追いつく。キャリアーから降りてきたのは、この荒地には似つかわしくないきっちりとしたスーツを着た女性だった。歳は多分、あたしと同じか少し下。 「いや、お互い様だよ。あたし達も、あなた達を囮にしちゃったようなものだから」 とりあえずこの女性に、あたしの仕事及び今回の依頼内容を説明した。 「そうですか……、先程の砲撃を見るに、それなりの規模の猟兵団なのですね」 「いや、あいにく二人だけ」 女性の目が丸くなる。 「種明かしをするとね、アレはこういうことなんだよ」 苦笑しながら、あたしは地平線を指差した。あたしたちのグスタフに先行して、四つの飛行物体が飛んでくる。その形を見とめ、女性は言った。 「コマンドウルフのビーム砲座……ですか」 「そ。只の砲台と侮るなかれ、貧乏猟兵には結構重宝するんだよ~?」 ぶっちゃけて言うと、ゾイドは高い。言うまでも無く値段が。だから世の猟兵はブロックスなり何なりとコストダウンに勤しんでるわけだけど、正直ウチはそれすらキツい。 となると、ゾイドではない装備も活用するほか無いわけで。幸いな事に、コマンドウルフの砲座はAC装備にすると余るから、割合格安で手に入る。もっとも、パワーの供給源が無いから多用は出来ないんだけど。 その辺を補って上手く使うのが、あたしの相棒・リオーネの役目だ。世が世なら、きっと名指揮官になってたんだろうね。 「あ……、申し遅れました。私は、エクステリア・アーネといいます」 「あたしはリエル、リエル・フィアット。よろしくね、アーネさん」 それにしても、あたしとしてはこのキャリアーの中身が凄く気になる。そんな思いが視線に乗って駄々漏れだったらしく、アーネさんが先に話を振ってきた。 「……やはり気になりますよね、この中身」 「え、あー……、うん」 「では、御仕事の依頼をさせて頂いてもよろしいでしょうか」 お、そうきたか。一応、さっきの仕事は終わったと言えば終わった。まだ細々とした手続きは残ってるけど。 「いいよ、後でちゃんと文面にしてもらうけど」 「もちろんです。……まず、ブルーシティまで我々の護衛をして頂けないでしょうか?」 「当面の脅威、盗賊団はあたし達が片付けたよ。その上で護衛を頼む、その理由を教えてくれるなら」 この返しに、アーネさんは明らかに動揺した。とはいえ、あたしたちも慈善事業で猟兵稼業をやってるわけじゃない。国家という存在は形骸化し、各地の都市がさながら大昔、地球に存在したという『都市国家』のような形を取り始めた昨今、おおむね世界は平和。盗賊団みたいな無法者にしたって、そうそう出没するわけじゃない。 つまるところこの中身は、割とヤバい代物である可能性が高いわけだ。 「……他言は、無用に願えますか?」 「それはもちろん、守秘義務はあるよ」 「このキャリアーには、ZOITEC社の新型機が搭載されています。機体名はワイツウルフ」 「ああ、今度の展示会で発表予定の新型? ワイツウルフっていうんだ」 納得半分、首傾げ半分。確かにZOITECが久々にリリースする大型機、神経質になるのもわかる反面、所詮一新型機、一ゾイドだ。 そんな疑問を突き付けると、 「……『この』ワイツウルフには、これまでのゾイドとは違うゾイドコアが搭載されているのです」 そして聞かされた内容に、あたしは興味半分後悔半分という感覚を味わった。
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この広い世界には様々な不思議がある。 森林の奥に秘められた遺跡、宇宙から飛来する謎の物質、星から流れるメロディー……………… そして人々の身の回り、そこには人間の首のような不思議なナマモノ『ゆっくりしていってね!!!』略してゆっくりが数多く存在していた。 人々は古来からそのゆっくり達と手を取り合い、時には争いつつも共存し続けてきた。 そして現在、ゆっくりと少年の旅が、今ここから始まる!!! ~ゆっくりもんすたあ~ スカーレットレッド 第一話「ゆっくりれいむ!ゲットだぜ!!」 暦も三月を迎え春も訪れる頃となった今日この頃。 このカザハナタウンではすっかり桜が咲き誇り、学校を旅立ちゆく卒業生達を送るように優雅に舞い散っている。 その桜吹雪の中、生首だけのゆっくり達、この近くに生息しているゆっくりみすちーやゆっくりなずーりん達は各々気ままに遊んでいた。 「………………羨ましい」 桜が舞い散る小道で一人僕は卒業証書を握りしめながらそんな事をつい呟いてしまった。 こんなではいけないと想い僕は嫉妬心を振り払うために思いっきり首を振った。いくら今の自分の心に余裕がないからってゆっくりに憧れてちゃどうしようもない。 そう、心に余裕がないのだ。 僕は手に握りしめていた卒業証書を見て再び憂鬱な気分になる。 この卒業証書は僕が第一風華小学校を卒業したことを証明する紙。しかしそれと同時に義務教育を果たし、社会に進出しろと行っているような命令書のような物でもある。 僕には自信がない。この世界を一人で乗り切っていくだけの自信が。 今まで学んできた物、知ってきた物が一体どのように役に立つとかどのように役に立たせるかと悩んでばかりだ。 世間巷では『ゆっくりトレーナー』とか言うゆっくりを戦わせて『ゆっくリーグ』へ挑戦するという職業?みたいな物があるらしいが、 僕は一回もゆっくりをゲットしたことはなく、接し方も戦い方も一つたりとも分からない。それに僕はそんな風天のような生き方は少々抵抗があった。 「ゆっゆっゆ、ゆ?」 ゆっくり達は今もなお黄昏れている僕に気付いたようで警戒しつつものろのろと僕に近づいてきた。 「ゆっくりしていってね!!!」 「……………………………はぁ、ゆっくりしたい」 このカザハナタウンは殆ど田舎と言って良いほど産業が発達しておらず、僕みたいな何の特技もない平々凡々な少年が就職するには難しい土地柄だ。 もちろん小学校ではそのための職業訓練とか行われていたけれど、僕は一体何を思っていたのか職業訓練に力を入れず、 普通の勉強とか何故か紅い服、紅いバンダナ、紅い稲妻の髪飾りとかを着飾ってヒーローごっこしていた記憶がある。 一応勉強の方は出来るがそのアドバンテージを生かすには他の町へ行かねばならず、他の町へ行くには野生のゆっくりとの対策が必要だ。 とどのつまり、今の僕が希望を見いだすためにはゆっくりとの交流が不可欠なのだ。 「ようし、ゆっくり、ゆっくりしてろよ~~」 「ちんち~ん?」 僕はちょうど近くにいたゆっくりみすちーを捕まえようと、声を殺し、気配を殺し、腕を構えてジリジリと歩み寄る。 本来ゆっくりを捕まえるためにはゆっくりボールとか言う道具が必要だが、ゆっくりくらいなら僕は手で捕まえられるくらいの自信はある。 「ち~ん~~~ちっちっ~」 「よし今だ!!」 みすちーが呑気に歌い始めた隙を見逃さずに狙い、僕はみすちーに向かって飛びかかっていった。 今、僕の体の軸はゆっくりみすちーの直線上にあるッ!このまま掴み損なうことさえなければこのみすちーを確実に腕の中に抱くことが出来るはずだ!! 「ち~~んちん、ち~んちん、ち~~~~んち~ん~~~~~♪」 「もらったぁ!!」 だが、ゆっくりみすちーを手の中に入れようとしたその瞬間、昼間にもかかわらず猛烈な睡魔が僕に襲いかかってきた! 「な、なっ!!!う、うううう」 みすちーのうたう! シュンはねむってしまった!! 「…………………………Zzz」 僕の腕は目の前のみすちーを掴むことを忘れ空を切り、僕はその体勢のまま地面を滑っていった。 「ゆっくりねむっていってね!!!」 意識が落ちた僕の耳にその言葉は届くことなく、ゆっくりみすちーは僕を足蹴にして空に飛んでいく。 このように人間ではゆっくりの不思議な力には太刀打ちできないことが多くある。 けれどゆっくりにはゆっくり、ゆっくりさせられるのならこっちが相手をゆっくりさせてしまえばいい。 だからこそゆっくりを捕まえて、育てることがとても重要。それを見事に失敗した僕はとりあえず今は眠っておこう。 「ゆっくり起きてね!ゆっくり起きてね!!」 パソコンで出力したような、または幼い少女のような、もしくは中○○衣さんによく似た声が僕の耳元でそう叫び続けている。 その言葉通りに僕は目を覚まし、それと同時にほろ苦い土の味を味わってしまった。 「う、うつぶせのまま寝てたから………」 「ゆっくり起きたね!」 体を起こして顔や体に付いていた泥を落とし、僕は寝ぼけ眼で辺りを見回す。 先ほどから僕の耳元で『起きてね』と呟いている美少女は一体何処のどなただろうか。 「起きたら起きたでゆっくりしゃっきりと!!」 「………………………………うおりゃ!!!」 「残念、それは残像だ」 近くにいたゆっくりれいむを目にした瞬間、僕の身体は反射的に動いていたがゆっくりれいむはゆっくりしてない速度で回避し、僕の腕は再び空を切った。 「ゆふ、このれいむをすででつかまえようだなんてじゅうねんはやいね」 「どこがゆっくりなんだよ………………」 一世一代のど根性捨て身タックルを二回もしてしまったから卒業式用のスーツが信じられないほど汚れてしまった。 落とせども落とせどもこびり付いた汚れは全く持って落ちることはなく、僕はこれから訪れるであろう親からの叱責に心を暗くした。 「で、なんだよ。一体僕に何の用だ」 「ゆっくりこれをうけとりなッ」 そう言ってれいむはいつの間にか口に咥えていた一枚の紙を僕に手渡し、すぐさま何処かへと去ってしまった。 いつの間にか他のゆっくり達も姿を消し、僕は桜が舞い散る中一人残された。 「……………………なんだよなんだよ!みんなして僕の事が嫌いかッッ!」 好きなことに一生懸命で何が悪い、目的に向かってがむしゃらに突っ走るのが何が悪いんだ。 みんなはその僕のがむしゃらな行動に醜さを感じ取り、ただそれだけで避けていく。子供も大人もゆっくりも。 頑張れば頑張るほど僕の周りから人がいなくなって、どうしようもなく立ち尽くすしかない。 「…………………まぁ、一応この手紙読むか…………」 一人癇癪を起こしても聞いてくれるような人は誰もおらず、次第に虚しくなってきて僕は手紙のことをふと思い出す。 ただゆっくりが手紙を書くとは思えない。だとしたら誰かに手渡された物なのだろうか。 「ええと、なになに『今日伝えたいことがあるので小学校の裏山にある夕香林樹の下に来て下さいBy森陰孫子』」 とりあえずこの町に小学校は第一風華小学校しかない(第一で唯一)。だからそこで待っていることは間違いない。 そして僕はその差出人の名前を良く知っていた。 「森陰というと、あの子か」 もりかげまごこ、見栄えのよいオレンジ色の短髪でいつも教室の盛り上げ役となってきた元気のよい女の子。 時々教室で今のように孤立しかけていた僕に話しかけてきたのも彼女。そのおかげで僕は大分救われ、今まで心を壊さずに生きてこられた。 その女の子が僕を待っている、これは期待が出来そうだ その上裏山の幽香林所と言えば絶好の告白スポット、この木の下で告白すると必ず成功するといういかにもでありがちな伝説まである。 「……………………………アリジャネ?」 いやいや、と僕は甘い考えを振り切って深く考えてみる。 もしかしたら彼女はその伝説を知らないかもしれないし、ただ僕に用事を押しつけようとしてるだけかもしれない。 でもそれならそれで良い。確かに僕は彼女に好意を抱いているがこぞって付き合いたいと思う程度の好意ではないのだから。 彼女は小さい頃からゆっくりと一緒にいるというのを聞いた事があるし、そこでゆっくりの捕まえ方をレクチャーして貰うのもいいはず。 それに、仮定の話だがもし僕が本当に心の底から彼女のことを好きであるのなら、こちらから告白してもいい。 「とは言っても、今はそんな大好きってわけじゃないしな」 そう思っているもののつい頬が緩んで、僕はつい手紙を握りつぶしてしまった。 気持ちも晴れたしそれでは向かおう、伝説のあの場所へ。 元々いたのが学校近くの小道だったので裏山に行くのにはそう時間は掛からず、日が落ちる前までには夕香林樹の所まで来ることが出来た。 「お、いたいた」 木の下の橙色の髪が遠目からでもはっきりと見えて、容易に彼女、森陰孫子だと特定できた。 待っている間手持ちぶたさだったのだろう。森陰さんは何か金髪のゆっくりらしき物と一緒に戯れている。 「もういるんだな…………」 僕の手の中に入らないゆっくりがあんなにも彼女の近くで楽しそうしているのを見て僕は非情に羨ましくなる。 その楽しそうな表情を見るたび僕は激しい敗北感に襲われ、一度は帰ってしまいたいとも思い始めた。 「……………………………うう」 「ん?あ、来た来た、おーい、相次瞬~~~こっちこっち」 彼女は僕の名前を呼び捨てにして、楽しそうに手を振っている。 これでどんなイヤに思っても逃げるなんて選択肢は消されてしまった。 「ゆっくり来るんだぜ、出来ればいそいで!」 どっちだよ、と言ってもその矛盾点ッぷりが尽きないのがゆっくりだ。口調からするとどうやらゆっくりまりさのようである。 二人の眩しい笑顔が余計に僕の心を窮地に押し入っていく。お前等はキン肉星の王子かっての。そして僕は悪行超人か。 「あ、そのなんかそこらへんのゆっくりれいむから手紙貰ったから来たんだけど………」 そう言って僕は手紙を取り出すが握りつぶしていたのを忘れていて、ぐしゃぐしゃな手紙を見て彼女はほんの少し悲しそうな表情になる。 「なによ、そんなに私の事が嫌い?」 「さいてーだね」 「ゴメン、その場の勢いに任せて握っちゃった……いや別に嫌いじゃないよ!むしろ…」 と言いかけて僕は唐突に口を紡ぐ。 あぶねえ、危うくこちらから告白しそうだった。 下手をしたら『嫌いじゃない』と言う言葉も告白に当たりそうだったが、彼女は未だ顰めっ面で僕を見つめている。 「それで用ってのは一体?こんな所呼び出したんだからそんなつまらない用じゃないと思うけど……」 「うーん、確かにつまらない用じゃないわね、何てったってあんたの一生に変化与えちゃうほどだもん……ね」 フラグか。 伝説の木の下で人生を左右するほどの出来事と言えばあれしかない。 あれ、そうあれ!あのあれとかメタルあれではなく、所謂告白!!! 「で、でも心の準備が」 「ここまで来ておいてそれはないでしょ、変なところで気弱なんだから!」 「…………………それでは、どうぞ」 ここまで押し切られたらもう僕は何も言えない。彼女は改まって一つ咳をして僕と向かい合う。 「瞬!あんた旅に出る気はない!?」 「…………………………………旅?」 とりあえず告白ではなかったようで僕はほんの少し安心したが、その単語の意味を僕はいまいち掴めなかった。 「旅って、どういうこと?」 「う~ん、ここで話すと長くなるから、後で家に来て!私の家分かる?劇場の近くの研究所だから!」 そう言ってここから去ろうとする森陰さんだがその前に一つ聞いてみたいことがあって僕は彼女を呼び止めた。 「その、この木にまつわる話って………知ってる?」 「???誰かが首吊ったとかそんな話?」 あ、知らないんだ。ここの呼び寄せる事の意味を。 はっきり言ってこの伝説自体に効力は全くないと僕は考えてる。場所なんかで恋心が変わるかと言ったらプラス面では絶対働かないと思う。 重要なのはここに呼び寄せること。それ自体が告白行為となって、婉曲的であっても相手に好意を伝える。 知らないなら知らないでしょうがないや。そう家に帰っていく彼女を見ながら自分で納得させるも何処か虚しい物があった。 じゃあ何でここに呼び出したんだよ。 学校をから約十分、僕の家からは十五分程度歩いたところにカザハナタウン唯一の劇場があって、 その向かいの家のすぐ隣に森陰家、というかオレンジTIE研究所があった。 オレンジTIE研究所は名前からはわかりにくいが生物、主にゆっくりの研究を行っている場所だ。 ゆっくりと人間の歴史はそう浅くはないのだが何故か未だゆっくりの生態についての研究は全くと言って良いほど進んでいないらしい。 それ故に各地の研究所が我こそはと互いに激しく敵対して研究を進めているほどだと聞いている。 「確か彼女の母親が………ここの主任だったっけ」 会うのは初めてだなぁと思って僕は初々しい気持ちで研究所に正面から入っていく。 いや別に結婚とかお付き合いのことを言いに行く訳じゃないからそう固くならなくてもいいのだけど、どうも先ほどのことが尾を引いているようだ。 「しつれいしまーす。相次瞬という者ですがぁ」 「ゆっくりしていってね!!!」 「おーきたきた。こっちこっち」 奥の扉から森陰さんとまりさが手招きをしている。とりあえず導かれるままに歩を進める僕であったが研究所に入ってから何処かみょんな臭いが鼻についていた。 生物研究所だからホルマリンとか薬品の臭いくらいはすると思うのだがこの臭いは薬品とは違った嫌悪感がある。 「それじゃ、お邪魔しまぁす」 「おーお前が孫子の言っていた相次かぁ、初めまして、あたしがこの研究所の主任兼孫子の母親森陰橙子だ」 扉の奥には白衣を着たオレンジ髪の女性が口に十本以上の煙草を咥えてそう僕に挨拶した。 ナルホド、この臭いは煙草か。よく見ると森陰さん(孫子)のゆっくりまりさはいつの間にかMS-06の様なガスマスクを付けていた。 容姿は親子だからか森陰さん(孫子)とよく似ているがスタイルの良さと髪の長さ、そして眉毛の太さだけは孫子さんよりもグレードが高かった。 「あーゴメン、うちの母さんもはやスモークゾンビだから………」「(シュコーシュコー)」 「とりあえず問題無いけど…所で用というのは」 「ああ、それは母さんに聞いて」 母さんに聞いて、ということは研究所がらみの話だろうか。まさか隣町まで荷物を取りに行けなんてそんな話では……… 「あー早速だけど相次、全国廻ってゆっくり捕まえてこい」 「……………………え?」 「いやこの町にいるだけじゃ全然研究捗らないし、サンプルというか資料が欲しいんだよ。 まごまごしてたらライバルの玖我シアリーズ研究所に遅れを取っちまう。それだけは我慢ならん!! だからお前と孫子の二人で全国廻っていろんな種類のゆっくり集めてきてね、旅費は出すから!」 「その、一つ聞きたいんですが何故僕に?」 クラスにゆっくりと付き合っていた子はそんな少なくなかったはずで、ゆっくりとの付き合いがない僕が頼まれると言うのも変な話だろう。 そう弱々しく僕が反論すると橙子さんは太々しくこう言った。 「だって、お前将来決めてないらしいじゃん」 ………………………人が気にしていることを。と言うか何でそんな事貴方が知っているんだ。 「いや将来と言っても社会に出て働く気はありますよ?でも隣町とか行くのも辛いしこの町で雇ってくれるかどうか………」 「じゃあゆっくりが必要だな、それならついでに私の提案を聞いても悪くないだろう。だから行け」 「全国廻れって、ついでのレベルじゃないでしょう!!」 間違いなく人生棒に振りかける行為だ。と言うかもうお願いから命令になってるし!! 「………………ね、母さん。私ゆっくリーグに挑戦しても良い?」 「ん?ああ、その代わり私の頼み疎かにすんなよぉ」 「へへ………」 橙子さんに頭を撫でられて嬉しそうにする孫子さん。 見ていて心和み、羨ましくもなる光景だが僕にとってはそう言う問題じゃない。 「えーと、僕いやですよ。そんな旅に出て根無し草の生活だなんて。ましてや、ゆっくりトレーナーなんて………」 「近頃のガキはませた考えしてるなぁ………夢がないよ…………ん?でも…………………」 ふと何か思い立ったかのように橙子さんはそこらの棚から一冊の本を取り出す。 何処かで見たことあるような本だが何故か思い出せない。学校で見た事あるような……………… 橙子さんはパラパラとページを捲り、とあるページで指を止めて僕の方を何故か見た。 「なんですかその本…………」 「えー、こほん『ぼくのしょうらいのゆめ』」 ………………………………………………………え? 「『ぼくはおとなになったらじんるいさいきょうのうけおいにんになってあいかわさんみたいにさつじんきとかころしやとかをばったばったとたおしてみたいです。 ふたつなは”すかーれっとふぉとん”とか”らくえんのしんくなうけおいにん”とかがいいで』」 「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」 なぜ!なぜそれをおおおおお!!!!!!!!!!!!僕の忌まわしき過去がアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!! 「これ一年前の文集だけど………この一年で一体君にどういう心情の変化があったのかしら?」 「私は知らないよ」 「……………………………………!」 畜生、よくもやってくれやがったな。一年前の僕はそりゃあブイブイ言わせてたけど今ではしっかりと常識人だ。 もう絶対に協力何かしてやるもんか!!この太眉オレンジババァめ!! 「もし断ったらこれを町中に配布する!」 「このくそばばああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」 「それって既に学校中に廻ってると思うけど、聞こえてないねこりゃ」 なんて事を!ここまで露骨に脅迫して来るだなんて!!!! 「やだよぉ………………風天の生き方だなんて」 「……………………………いいじゃん風天でも」 床で三角座りして屈辱を噛み締めている僕に対して孫子さんは優しく僕の肩を叩く。 「何か目的を持って突き進むことは社会で生きていくのと同じくらい誇れることだと思う。だからさ、良いじゃないゆっくりトレーナー」 「………………………………目的なんて」 「じゃあ、競争しましょ!!どっちがゆっくリーグチャンピオンになれるか!!今から私たちはライバル!今から始め!!」 「……………………………ゆっくリーグか、」 夢を捨てて僕は常識人になったつもりでいたが、結局それは無意味でしかなかったのに今気付いた。 僕の夢は強くなって誰かの役に立ち、誰かのために戦えるヒーローになること。正義とかじゃない、誰かのために立ち上がれる戦士に。 ゆっくりトレーナーは誰かの役に立てるだろうか、誰かのために戦えるだろうか。 目指す価値は、あるはずだ。 「分かった、それじゃあ僕と孫子は今からライバル。競い合おう」 「よしっ!それじゃ今からスタート!いやっほおおお!!」 「ゆっほおおおおおおお!!!」 「ちょっと待ちなさい!孫子!」 この煙まみれの空間から逃げ出すように孫子さんとゆっくりまりさは外へ行こうとするがその直前、橙子さんは急いで孫子さんを呼び止めた。 「リーグも良いけど私の頼みを疎かにしないって言ったでしょ!ほら、図鑑!」 橙子さんは机の上から二つのデバイスを取り、それらを僕と孫子さんの二人に手渡した。 赤い小型の電子辞書みたいな形状で表面には大きく『ゆ』と描かれている。 「これはゆっくり図鑑!ゆっくりを捕まえていくごとにデータが私の方に送られてくるから大事に保管しておきなさいよ!」 「う、うん、分かった。それじゃ!いってきまーす!!」「いってくるんだぜ!(シュコー)」 そうして扉は大きく開かれ孫子は一目散にこの部屋から逃げていった、いや飛び出していった。 僕は手の中にあるゆっくり図鑑を見て自分の夢、目的を思う。 これからゆっくりと旅して、育て、戦い、突き進むのだ。 だから……………………………………………………………………………あれ? 「あの、おかーさん?」 「あんたにおかーさんって呼ばれる筋合いはないっ!呼んで良いのはパパだけよッッ!」 「いや、旅立つためのゆっくりを~なんて」 「……………………無い」 「………」 「いないのよ、そんなの。とりあえずれいむとかさなえとかさくやとか用意したけど…………いつの間に逃げられた」 そりゃあこんなたばこ臭いところにいたらゆっくりだって逃げ出す。 とりあえずその煙草どうにかしろ。いつか肺ガンで確実に死ぬぞ。 「それじゃ、ゆっくりボールとか………」 「注文したけど全然来ない、KONOZAMAよ!!!」 「………………………じゃあ、どうやってゆっくりを捕まえろと…………」 「……………ゴッドハンドで頑張れ」 先ほどはそれをやって失敗したんだが。 しだいに橙子さんの頬から冷や汗が流れ始め、目が泳ぎ始めている。もう僕の姿さえも積極的に見ようとしない。 「………………………………せ、製品版ではれいむ、まりさ、さなえの三つが選べるわよ」 「このばばあああああああああああああああああああああ!!!!もうしらねえよおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」 どうしようもない居たたまれなさと煙の不快感で僕は脱兎の如く勢いよくこの部屋から飛び出した。 どいつもこいつも!!そんなに僕の事が嫌いかアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!! 帰宅後、服を汚したことで一番始めに母さんの怒鳴り声が聞くのだろうかと思っていたが、母さんはまず最初に僕の卒業を祝ってくれて、 その次に服の汚れを心配し、その後服にこびり付いた煙草のにおいであらぬ疑いをかけられた。 「瞬、いくら卒業したからって煙草は…………二十歳になってからよ」 「吸ってないよ、ちょっと森陰さんちで」 「ああ、あのスモークゾンビ博士の…………なら仕方ないわね」 一応それであっさり疑いは晴れたがあの博士ってとんでもないイメージで広まってるんだな、と妙な納得をした。 その後、父と母と僕三人揃った夕食となり、当然のように進路の話となり僕は今日のことを逐一話した。 これからの自分に不安があること、ゆっくりがいなければ隣町に行けないこと、そしてゆっくりトレーナーとして旅に出ること。 旅に出ることに関して両親は反対することはなかったが、やはり不安なのだろうか二人とも会話中とても心配そうな表情を浮かべていた。 「う~ん、僕の母さんはゆっくりを連れて旅してたって言うけど、瞬。お前ゆっくり捕まえられるのか?」 「この辺でゆっくりボール買える所なんてないし、一つくらいゆっくり匿った方がよかったかしら?」 「………大丈夫だから、僕なら出来る。それなりに、うん」 反対することがなかったのは僕の祖母も同じ事をやっていたからだそうだ。今も老体の身で二人のゆっくりを連れて世界中を旅しているという。 僕はそんな二人の気遣いを受け、旅の準備のために自室に向かった。 これから一生を左右する旅に出ることとなる。そのためにも今までの自分をきちんと整理しなければいけないと僕は考えたのだ。 修学旅行のとき使った大きなバック、遠足のとき使った大きな水筒。どれもこれも懐かしく、思い出深い品物がざくざくと出てくる。 そしてその中に、一枚の紅いバンダナがあった。 「……………………………………………」 側面に二つ紅い稲妻の飾りが付いた紅いバンダナ。それは僕が本気で正義の味方になろうと思っていた時自力で造ったバンダナだ。 正直昨日までの自分だったら黒歴史の一つとして無下に捨てていたかもしれない。 しかしこれは僕が本気で夢を目指していた証の一つ。形からでも正義の味方になろうとしていた自分がいた事を思い出させた。 「……なぁんで、正義の味方になること諦めちゃったんだろうなぁ」 正義の味方になろうと頑張れば頑張るほど、人は僕から離れていき、そこに虚しさを感じた僕はその夢を簡単に手放してしまった。 そう考えると、僕は今も昔も、全然何も変わっていないではないか。何が常識人だ。 「………………頑張るか」 僕は意気込んでそのバンダナを頭に被り、自分の姿を手鏡でまじまじと見た。 似合うかどうかは別として、このバンダナはぼくに夢に向かう勇気を与えてくれる。今も昔も変わっていないのなら夢に向かう力もまだ残っているはずだ。 そして決意する。明日、あの場所でアイツと決着を付けることを! 「しかしやっぱ似合ってるなぁ、特に紅い髪に紅と言うのが」 木陰から朝日が差し込みその光は僕の眠気を徐々に徐々に覚ましていく。 紅いバンダナを被り、大きなバックを持って僕は再びあの学校近くの桜舞い散る小道に訪れていた。 「出てこい!れいむ!昨日の続きだ!!!」 「おにーさんもしつこいね」 僕の呼びかけにまるで待っていたかのように木の影から現れた昨日のゆっくりれいむ。 れいむはそこからゆっくりとゆっくりと僕に近づいていく。 「で、おにーさんは準備とかできたの?ちゃんとゆっく」 「おらぁ!!!!!!!!!!」 先手必勝、僕はバックをその場に置き、セリフの途中でれいむに掴みかかった。 しかしれいむは機敏な動きで僕のタックルを簡単にかわしていった 「ゆっ!?昨日れいむにまけたこと覚えてないの!?ばかだね!」 「『負けた』?いや、その言い方はおかしいな、お前を素手で捕まえようとしたのはこれで二回目だ!」 「二回も三回も、何回やっても同じだよ!らくえんのすてきなまんじゅうは素手じゃやられるほどおちぶれちゃいないね!!」 「捕まえてみせるさ!俺はその楽園の素敵な幻想を………ぶち壊す!」 自分で格好いいと思うセリフを吐いて僕は再びれいむに向かって突進し、れいむはそれを再び躱す。 そのやりとりは不毛ながらも何回も続けられ、両方の体力をとことん削っていった。 「………………みぐるしいよ!どうしてそんないっしょうけんめいになるの!?」 この戦いが始まったのは朝であったが、いつの間にか太陽が頭の上から照りつけている。 二人の呼吸音がこの世界全ての音のように感じる。それほど二人は長く戦い続けてきた。 「見苦しいだと、こいつ!!!絶対に捕まえてやるッッッッ!!」 なぜこうも僕の努力は、他人から蔑まれることしかないんだろう。 れいむの言葉を聞いて僕は激昂し、足のバネを全力で縮ませて一気に飛び出す。 だがそれもまたれいむに躱され、僕は近くにあった木に頭からぶつかってしまった。 「うわぁ…………………流石にあきらめてね!!」 「……………………諦める…………だとぉ…………このゆっくりがぁ!僕をなめんなッッ!」 ぶつけた額を抑えながら僕は再びれいむに照準を合わせる。 何か顔中ぬるぬるした感触に襲われたり、視界が赤く染まったりもするが、そんな事は今は関係ない!! 「おらあああ!!相次スカーレットバスターッッ!!」 「なんかばかなこといってるけどまじでこわいぃぃぃ!!!!」 右腕と左腕を後ろで伸ばして組み、あえてれいむを飛び越す程度にジャンプをしてれいむの頭上で腕を一気に元に戻す!!! 例え前や後ろに逃げようがれいむの後ろに回ったときに捕捉出来るし、右や左に逃げてもこの両腕で大きく振りかぶりれいむの体を掴めるはずだ。 しかし腕を元に戻した瞬間、目眩がし視界がぼやけ、腕が空振り僕はそのまま頭から地面に激突した。 「がッ…………………………ご、ごの」 「わけがわからないよ…………………しょうじきいっておにーさんは変だね!!!」 「うるぜえええええええええええ!!!!おまえらも僕の事をバカにずんノが!!!」 僕は怒りにまかせて再びタックルしようとしたが、何故か足が動かず、何も見えなくなってきた。 頭がぼーっとする、思考が廻らない、額が軋む、顔が動かない、首が回らない、目が開けられない、息をする度に唇が痛む。 一体僕はどうしたのだ?いやそんな事は関係ない、今考えるべきは目の前のれいむを捕まえることだけ…………………… 「……………?はは、頑張るよ、僕は頑張るから……………行かないでよ」 「…………………い、いくら涙目になってもれいむにはゆっくりとしてのプライドがあるよ!ゆっくりボールなら避けないことを考えてやらんこともない!」 「………ははっ………そんなのないから、僕は素手で頑張るしかないんだよ………」 「頑張る頑張るって限度があるよ!!」 「うるせええええええええ!!!努力に限度なんてあるか!!!何でみんな僕を否定しようとすんだよ!!! 認めてくれよ!!!こんなに………こんなに頑張ってるんだから…………みんな………僕を嫌いにならないで…………」 頑張っても、頑張っても、結果に辿り着く前に周りの人は僕を止めようとして、結果の是非にもかかわらず誰からも評価されない。 残るのは嘲笑、苦笑い、後悔。だから僕は夢を追うことを止めた。 「でも…………………今は全力で頑張らせろ!!!頑張れば……………絶対何か出来るから………」 「でもそんな怪我でどうやってがんばるの?」 「…………怪我…………?怪我してる…………のか?」 そうか、先ほどの不調の原因は怪我のせいか。でも、僕は今立ち止まることは…………出来ないから………………… 「………前々から思ってたけど、瞬は一人で頑張りすぎ」 ふと聞き覚えのある女の子の声を聞いて振り向くと、そこには昨日旅だったはずの孫子さんとまりさの姿があった。 「何だよ、お、おまえまで、ぼ、ぼくを……………ばかに」 「そうじゃない、瞬はいつも『一人』で頑張ってるのよ、誰からの手助けも必要としないで…… もうちょっと……人を頼ってよ」 「…………………それなら、そうと言えよ…………………」 見栄を張りたい12歳な僕。他人の手を借りることが恥ずかしいこと、自分一人ですることが格好いいことだと思い続けてきた。 だから困ったときは誰かを頼るという考えは思いつかず、僕はいつも一人で何とか極地を脱しようとがむしゃらに頑張ってきた。 他人の力を借りれば、避けられることも無かったかもしれないのに。 ゆっくりボールくらいこの町の誰かが持ってるだろう。その人から貰うなり借りるなり出来たはずだ。 「…………………………でもこれは…………僕一人の事情だから」 「はぁぁぁ!?うぜぇぇぇ!!」 孫子は僕の頭を掴み無理矢理僕と視線が合うように手を捻る。首が痛いがその真摯な表情に声を出すことが出来なかった。 「あんたとあたしはもうライバル同士よ。だからあんたがそんなんじゃ張り合い無いじゃない!!」 「……でも」 人に借りを作るのは苦手、ましてやいつ返せるかも分からない借りはあまりしたくなかった。 僕がそんな遠慮がちな態度を取っていると孫子は痺れをきらしたようで地団駄を踏み僕に叫び散らした。 「あんたは変なとこで気弱なのよ!ほらこれ、あたしのゆっくりボール!しっかりと使いなさいよ!」 孫子から小さいボールを無理矢理渡されて背中を押された僕は再びれいむと向かい合う。 手渡されたボールは何故か暖かさを感じた。仕方ない、こうなりゃ孫子の好意を有り難く受け取ろうではないか。 「こっからが本番だぞ」 「ゆふふ、そんな事分かってるよ。さあこれがラストステージ。一発限りの真剣勝負だね」 僕はゆっくりボールを構えてジリジリと射程距離を縮めていく。 狙いを定めて投げつければそれで終わりだが、生憎視界と意識が朦朧として上手く狙いを定められない。 手元にあるボールは一つ。他人から手を借りるのはこれで最初で最後。 だからありとあらゆる手を使ってでも確実に相手にボールを当てるようにしなければならなかった。 「………………………………………」 「………………………………………」 固唾を呑み、僕とれいむは互いに無言のまま互いの動きを探り合う。 そして、僕の朦朧とした視界の中で、れいむはほんの少し動きを見せた。 「今だッッッッッッッッ!!!」 「ゆっっっっっっっっ!!!」 れいむが跳ねると同時に、僕は大きく振りかぶってゆっくりボールを投げつける。 だがほんのちょっとタイムラグが生じてしまいその投射方向にれいむの姿はもう無かった。 「躱されたッ!?」 「いいやっっ!!!」 何者にも当たらず、地面にぶつかったゆっくりボールは地面で回転を始め、そのままれいむに向かって跳ね返っていく。 空中で身動きの取れないれいむはその弾道を躱しきれず、ボールにぶつかりそのままゆっくりボールの中に吸い込まれていった。 「……………………………つ、捕まえたか?」 「いや、体力が余ってると外に出られることがあるから…………………」 それなら大丈夫だ。体力なら、もう既に削りきってある!! れいむを吸い込んでから地面で大きく揺れていたゆっくりボールは次第に動きが収まり、最終的には動かなくなった。 「たぶん、いやきっと成功よ」 「……ふ、ふ、ふ、ふ、いやっほおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」 僕はその嬉しさのあまりあまり動かせない足を無理矢理動かして、ゆっくりボールを手に取り高く掲げた。 「ゆっくりれいむ!!!ゲットだぜ!!!」 一度入ってみたかったセリフだ。後悔はない。 余韻を十分堪能した後僕はゆっくりボールを目の前でまじまじと見つめ、捕まえたれいむの顔を見てみたいと思いボールをいじくり回す。 触っているうちにボールの真ん中にあるボタンを押してしまい、中かられいむが飛び出してきた。 「ぷーーーっ!やってらんないよ!」 「ふふ、ふふふふふふふ」 「な、なに!今度はにやけ顔とおにーさんさっきから気持ち悪いよ!」 「いやさ、さっきまでの反抗的だったお前がこうして僕の手中に入ることが」 「………………十二分にきもちわるい理由だったよ、やっぱすなおににげとけばよかったかなぁ」 そうやって嬉しく思っているとポケットに入れていたゆっくり図鑑が光を発していることに気付き、僕はゆっくり図鑑を取り出した。 __ _____ ______ ,´ _,, '-´ ̄ ̄`-ゝ 、_ イ、 ,'==─- -─==', i i イ iゝ、イ人レ/_ルヽイ i | レリイi (ヒ_] ヒ_ン ).| .|、i .|| !Y!"" ,___, "" 「 !ノ i | L.',. ヽ _ン L」 ノ| .| | ||ヽ、 ,イ| ||イ| / レ ル` ー--─ ´ルレ レ´ ゆっくり図鑑 NO.002 ゆっくりれいむ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~らくえんの すてきな まんじゅう。 その あいくるしいすがたで がいたの みんなを とりこにした。わきを みせびらかしている みこは にせものだ! がいたとかにせものとかがよく分からないがこれでゆっくり図鑑が一つ埋まり、旅の目標に一歩近づいたこととなった。 とりあえず頬ずりもしておきたいところだったが、れいむは果てしなくイヤ~~~~な顔をしているのでとりあえずボールに戻しておくとしよう。 「ええと、戻し方は」 「また同じボタン押して、出てきた光をゆっくりに当てるのよ」 「そうか、それじゃれいむ!戻れ!」 孫子に言われたとおりにボタンを押して僕はれいむをボールに戻そうとしたが、れいむはボールから出てきた光をさっと躱した。 「…………………………………」 「…………………………………」 狙いが悪かったのかなと僕は再びボタンを押すがれいむは側転をしてその光を躱す。完全な回避行動だ、コレ。 「戻れよ」 「そんなタバコ臭いところはもうゴメンだね!」 「タバコ臭い!?」 れいむの言葉を受けて僕はそのボールの臭いを嗅いでみると確かに煙草の臭いがむんむんと発せられている。 「そういえばうちに置きっぱなしのボールだったから……………」 「ぜっ~~~~~たいにもどりたくないよぉぉぉ!!!」 あの太々しい表情を絶やすことの無かったれいむが大声を上げて泣いている。 そういえば、橙子さんが『れいむとかさなえとかさくやとか用意したけど…………いつの間に逃げられた』と言っていたな。 もしかしたらこのれいむはその逃げ出したゆっくりの一つなのかもしれない。 「けど、どうしよう。ボールに戻せないんじゃ……」 「いや?別に問題無いわよ?私だってまりさをいつも外に出してるもん」 「そうだぜ!」 戻さなくてもいいんなら戻さなくてもいいだろう。いくら辛酸を舐めさせられたといっても無理矢理嫌なところに行かせるのは正直気が引ける。 それに僕だってあの煙草の臭いをかぎ続けるのは流石にイヤだ。 「ゆ~ゆっくりありがとね!おにーさん!イヤ礼を言うほどでもないかも」 「はは、僕の名前は相次瞬って言うんだ。お前は?」 「れいむはゆっくりれいむだよ!しゅんおにーさん、ゆっくりしていってね!!!」 れいむは僕の頭に載ってふんぞり返るが、今の僕にはそれが心地よい。 これが僕のパートナー、初めてのゆっくり。 「それじゃ、これで私たちはようやくスタートラインに立ち並んだと言う訳ね」 「孫子…………さん」 「ライバルだから孫子でいいんじゃない?せっかくだからバトルしたいけど、その様子じゃね」 れいむは疲労困憊、僕は満身創痍でバトルなんか出来る状況ではない。 そもそも僕はバトルの仕方さえも分からない。まだまだヒナになってもいない初心者だ。 「そんじゃ、私は先に行くから!また何処かであったらバトルしましょうね!!」 そう言って孫子は手を振ってまりさと共に路地を駆けていく。 そのまま見送るのもよかったが、僕は彼女に言いたいことがあって追いかけて呼び止めた。 「?」 「…………あの、その、ありがと」 ゆっくりボールを貸してくれなかったら僕はスタートラインに立つことが出来なかったかもしれない。 それに人を頼ることを、彼女は教えてくれた。 「ふふ、それじゃ最後に一つ忠告!ゆっくりバトルはゆっくりを信じ、ゆっくりに的確な指示を与えることが大事! 一人だけで頑張ってたって、何の意味もないからね!!それじゃ!!」 「ゆっくりバッハハーイ!だぜ」 そうして別れの言葉を言って、孫子の背中はどんどん小さくなっていった。 桜散るこの世界で、今はれいむと二人ぼっち。 目の前には道、廻りには頼るべきゆっくりがいる。 「さて、僕達も行くぞ!」 「ゆっくり頑張るね!!ちゃんとフォローもおねがいするよ!」 ここから始める大冒険、不思議なナマモノゆっくりと少年の旅はまだ始まったばかりだ!! 第一話 終わり 書いたかもしれない人 躁みょん(カリカリ)の人 卒業文集の将来なりたいものってやつ見返してみると黒歴史。あるあるw しかもなんでこんなのになりたかったのかと疑問に思うものばっかり -- 名無しさん (2012-06-30 18 44 39) 名前 コメント
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店員の動きが止まり、周囲が静寂に包まれる。 俺は試着室のカーテンを開け、中を見る。 誰も居ない。どうやら部屋を間違えたようだ。 隣のカーテンを開けると、上半身にジャケット、下半身パンツ1枚の久美子が立っていた。 下着だけの姿よりも、今の状態に興奮を覚える俺は、変態なのかも知れない。 俺は試着室の中に入り、久美子の前に膝まづく。 目の前には、久美子はピンクのフリルが付いたパンツがあり、薄っすらとヘアーが透けている。 俺は久美子の股間に顔を埋め、力いっぱい匂いを嗅いで見る。 香水の匂いと共に、汗の臭いに混じった女性特有の甘ったるい匂いが、俺の鼻腔を擽る。 「はぁはぁ・・・」 興奮に息を荒げた俺は、久美子の股間から顔を離しパンツに手を掛ける。 パンツを膝まで一気に下ろす。 目の前に、久美子の逆三角形のヘアーが現れた。 俺は久美子の女性器に手を伸ばした。 割れ目に沿って指を動かし、やがて指が小さな突起物を触る。クリトリスだ。 俺は、両手でそっと割れ目を押し広げ、顔を近づける。 肉の割れ目に、小さな芽のようなクリトリスが見える。 割れ目に沿って、舌を這わす。 苦味と酸味の混じったような味が、舌先に広がり、舌の先で久美子のクリトリスを捕らえる。 クリトリスを重点的に舐め上げていると、少し大きくなったようだ。 俺はゆっくりと、久美子の膣内に指を挿入してみる。 くちゅ。 指先に久美子の体温が伝わり、指をゆっくり上下に動かしてみる。 くちゅくちゅ。 俺の唾液で湿った久美子の女性器から、いやらしい音が聞こえる。 俺の息子は極限までに膨張しているが、直立状態の久美子には挿入は不可能だ。 砂時計の砂は残り少ない。体制を変えてる時間は無いだろう。 ふと、久美子の足元を見ると、脱ぎかけのズボンがある。 恐らく、この後、脱いだズボンを取るために前屈みになるはずだ。 前屈状態ならば、今の状態より挿入は容易だ。 そう考えた俺は、久美子のパンツを戻し、素早く試着室の外に出る。 そして、時が動き出す。 どかーん。 「きゃっ」 びりりり・・・。ぺちん。 俺は、突然の衝突音に驚き、辺りを見回す。 試着室の横で転倒している警備員。 試着室のカーテンに絡まりながら、倒れている久美子。ピンクのネズミさんパンツが丸見えだ。 この状況から判断すると、恐らく、警備員が試着室にぶつかったのだろう。 その衝撃で、バランスを崩した久美子が、カーテンに掴まるものの、カーテンが体重を支えきれずに 現在に至る、と言ったところだろう。 「き、貴様ぁ〜!」顔を真っ赤にしたけ警備員が立ち上がり、物凄い形相で俺に掴みかかってくる。 俺は訳も判らず、警備員に締め上げられた。 「お客様、大丈夫ですか?」その背後では、店員が久美子を助け起こしているようだ。 「貴様が変質者だな!」更に俺を締め上げる警備員。 ここで、俺は状況を理解した。 どうやら、試着室の横で、怪しい行動をしている俺を見た店員が、変質者として、警備に連絡。 駆け付けた警備員が、俺に声を掛けようとした時に、俺が時間を止めた。 時間が動き出した時に、俺は元の位置には居らず、掴みかかろうとした警備員がバランスを崩し、 試着室に突っ込んだ。恐らく、こんなところだろう。 「ちょ・・く・・苦し・・は・・なせ・・・」怒りのためか、警備員が本気で俺を締め上げている。 「ちょっと、何をしているんですか! その人は私の連れです! その人が何をしたというんですか!」 状況は理解できないものの、警備員に締め上げられている俺を見た久美子が、警備員に声を掛ける。 久美子の言葉を聞いた店員が、慌てて警備員を止めに入り、俺は締め付けから開放された。 「げほ、げほ・・・」 警備員の締め付けが、思いのほかきつく、俺は首を抑えながら警備員を睨みつける。 「何があったのか、説明して下さい!」腰にカーテンを纏った久美子が、店員に問い正す。 店員から説明を受けた久美子は、一度別の試着室に入り、スカートを履いて出てくる。 「この人は見た目は怪しくても、一応、私の連れです。 変質者に見えたとしても、仕方在りませんが、あそこまで暴力を振るうのは、 酷くありませんか?」 何気に酷い事を口走っていることに、久美子は気付いていない様子だ。 現在、俺らの周りには先ほどの警備員、店員、この店の店長、 デパートのフロアマネージャーだかが来ている。 俺のことを思いやってと言うより、自分が醜態を晒したことに対して怒っている久美子に、 警備員、店員、店長、フロアマネージャーが萎縮している。 特に、冷静になり自分がしたことの重大さに気付いた警備員は、見る影も無い。 基はと言えば、俺が原因である。 確かに、喪男が女性の入った試着室の横でニヤニヤして居たら、俺でも警備に通報する。 警備員の行動はやり過ぎだが、まぁ、被害者は俺だし。 俺はもう気にしていない、と言う事を伝え、何とか久美子をなだめる。 渋々ながら、怒りを納めた久美子と共に、店を後にした。 首締め事件のお詫びとして、店長からは、久美子のスカートとズボンの修理代。 フロアマネージャーからは、駅ビルの最上階にある展望レストランのお食事券を貰った。 高級レストランのお食事券なんて、一緒に行く相手も居ない俺が貰っても、宝の持ち腐れだ。 俺は久美子にお食事券をプレゼントしようとするが、 「あなたが貰ったものですので」の一点張りで、久美子は受け取らない。 ヒールとズボンの修理が終わる日にでも、食事をしましょう、と言う一言により、 何とか、お食事券の使い道も決定し、久美子と別れた。 俺は、「時間を止める度に何かしら事件が起こるな」などと考えながら、 自宅までの帰路に着いた。 自宅に帰った俺は、先ほどの試着室での行動を思い返し、自慰行為に耽った。 翌朝、枕元に転がる丸まったティッシュの数から、4回目の途中で眠りに落ちたらしい。 久美子が修理に出したパンスツース、ヒールは明後日には出来上がる。 明後日にはまた、久美子と会うことができそうだ。 週末ではないので、予約は必要ないかも知れないが、一応展望レストランに予約は入れておこう。 午前中、何度か社長から呼び出しがあり、いつものようにパソコン指導を行う。 いい加減、自分で調べると言う事を身に付けて欲しいものだ。 何度も、「昨日の事は秘密だぞ」と言ってくるところからも、昨日の事は大分、気にしているらしい。 何度目かの指導を終え、席に戻ると亜紀から昼食に誘われる。 昨日のようなことでも無い限り、一緒に食事に行くと言うことは無いのだが、秘密を共有する者として、 親近感でも沸いたのかも知れない。 俺は、別に断る理由も無いので、亜紀と2人で昼食に向かった。 昨日はパスタだったが、今日は蕎麦屋にした。 「俺、明日会社休むから、よろしく」注文を終えた俺が、亜紀に言う。 「通販で買ったアダルトグッズでも、届くんですか?」 「違うから! そんなもん、買ってないから!」 「隠さなくてもいいですよ〜。喪雄さんなら買ってても、可笑しくないですから♪」 全力で否定する俺を無視し、一人で、そうかそうかと、亜紀は妙な納得をする。 可愛い顔をして、なかなか酷い事を言うやつだ。 このまま、はい、そうです、などと肯定しようもんなら、亜紀のことだ、どんな尾ひれがついて 周るか判らない。 「明日、不動産屋に部屋の更新に行くんだよ。社長には、もう言ってあるから」 本当は別の理由で有給を取ったのだが、わざわざ亜紀に言う必要も無い。 別の理由については、番外編1を見て欲しい。 「な〜んだ。つまんないの〜」亜紀は口を尖らせ、注文したおろし蕎麦をかき混ぜながら言う。 ちなみに、俺はカツ丼、亜紀はおろし蕎麦を注文した。 「で、俺を昼食に誘った理由は何なんだ? 昨日のことか?」 俺の注文したカツ丼は、揚げているのか、なかなか来ない。 「そうそう、昨日の事、ノリちゃんに話したら、すっごい、大爆笑でしたよ〜!」 「お前、人に話したのかよ・・・。やっぱり、昨日の昼飯奢ってもらった意味、 判ってなかっただろ・・・」 「あ・・・」てへっと言うような感じでチロっと舌を出す亜紀。 「大丈夫ですよ〜。絶対に秘密ってことで言いましたから〜」 「いや、お前が秘密にしてないから・・・」 ノリちゃんとは、隣の課にいる、亜紀と同期の女の子のことである。 「ノリちゃんは、口が堅いから大丈夫だと思いますよ〜。そうそう、ノリちゃんと言えばですね〜・・・」 亜紀の話はあっちに飛び、こっちに飛びするので、聞いていて疲れる。 ノリちゃんの話をしているのかと思えば、何の脈絡もない犬の話になったり・・・。 30分後、ようやく俺のカツ丼がきた。亜紀はすでに、食べ終わっている。 「で、話って結局なんだったんだ? 昨日の事じゃなかったのか?」 ようやく着たカツ丼を食べながら、俺は亜紀に聞く。 「違いますよ〜。今、実はちょっと悩んでいるんです〜」 関係ない話で、30分以上も話してたのか・・・。呆れ顔で見る、俺の視線を余所に、亜紀は話を続ける。 「実は、元彼にストーカーみたいなことされてるんですよ〜」 「ストーカーみたい? どんな事されてるんだ?」 ストーカーとは、穏やかではない。こんなやつでも、一応同じ課の仲間である。 俺は真剣に話を聞く。 「主にメールと電話なんですけど〜、内容が〜、今日何時に起きただろ〜とか、 今のパジャマは、お前には似合わない〜とか」 どう見てもストーカーである。 被害者としての自覚が無いのか、亜紀はケロっとした顔で話す。 「まったく、人の趣味にケチ付けるな〜って感じですよね〜?」 亜紀は、俺のカツ丼からカツを一切れ摘み、ひょいと口に入れる。 「おま、俺のカツ・・・。それって、どうみてもストーカーだろ? 俺に相談するより、警察に相談した方がいいんじゃねぇか?」 俺はこれ以上亜紀にカツを取られないように、どんぶりを少し遠ざけながら言った。 「そうなんですけど〜、何て言うか〜、警察に届けると、ストーカーするような男と 付き合ってたって、みんなに知られちゃうじゃないですか〜」 遠ざけられたどんぶりを見ながら、亜紀は虎視眈々とカツを狙っている。 「そんなこと、俺に言われてもなぁ・・・」 俺は、亜紀の魔の手からカツを守るべく、箸で牽制する。 「喪雄さんだったら、盗聴とか〜、盗撮とか〜、してそうじゃないですか〜。 ストーカーとかもやってそうですし〜、何か良いアドバイスがあるかな〜って思って〜」 「な・・・。お前、俺をそんな目で見てたのかよ・・・」 喪男の自覚はあるものの、面と向かってここまで言われると、さすがの俺でも凹む。 亜紀は、そんな凹んだ一瞬の隙を見逃さず、再びどんぶりからカツを奪う。 「・・・で、俺に何をしろって言うんだ? 言っておくが、俺は盗聴も、盗撮もしたことないぞ?」 カツをふた切れ食べて満足したのか、亜紀はお茶を飲み始めたので、俺は安心して、食事を再開する。 「え〜、した事ないんですか〜? 使えない人だな〜」 「使えないって・・・。したこと有った方がいいのかよ・・・」 俺は脱力して、どんぶりを置いた。 「有った方がいいとは言いませんけど〜・・・」 亜紀はお茶を置き、またもやカツを奪う。完全に油断した・・・。 俺はまだ、カツをひと切れしか食べていないと言うのに、カツ丼のカツは、残りひと切れになっている。 「で、お前は俺に、何をしてもらいたいんだ? 秋葉原辺りで盗聴・盗撮発見用の機械が聞いた ことはあるけど・・・」 俺はどんぶりをガードしながら、最後のひと切れを守る。 「そう、それですよ〜。それを使って、私の部屋を調べて貰いたいんですよ〜」 亜紀は最後のカツを狙い、臨戦体制を取っている。 「ちょ、ちょっと待て! 最後のカツだ。調べる、調べてやるから!」 「調べてくれるんですね〜? わーい。それじゃ、カツは許してあげま〜す」 俺のカツ丼なのに・・・。こうして、俺と亜紀のカツを巡る壮絶なバトルは終了した。 定時後、俺は亜紀と共に、亜紀の部屋へと向かう。 亜紀の部屋は、ロフト付きのワンルームで築3年。まだ引っ越したばかりらしく、 箱の空いてないダンボールが、いくつも置いてあった。 俺は午後に盗聴・盗撮についてのサイトを検索し、自分なりに知識を身に付けた。 調べる機械の方は適当な理由を付け、秋葉原で購入。 当然、領収証の宛名を会社にし、亜紀に処理させておいた。 使い終わってから、会社に置いておけば、業務上横領にはならないはずだ。多分。 夕食をマックで済ませ、店内でもう少し詳しい状況を聞き、メールを見せて貰う。 昼のパジャマについての話から、盗聴・盗撮、少なくとも、盗撮はされているはずだ。 昼間買った機械を見せながら、打ち合わせを行う。 亜紀の部屋に到着し、俺と亜紀は部屋に入る。 亜紀の体臭や、芳香剤?の匂い、お菓子の匂いなどが混ざったような甘ったるい匂いがする。 喪男の俺は、女性の部屋に上がるなど初めての体験だ。 かなり興奮しているが、悟られないようにしなければ。 部屋に入った俺は、早速発見器でチェックを行う。 1.2GHz帯盗撮器の周波数で反応あり。やはり、盗撮カメラが仕掛けられているようだ。 盗撮カメラの場合、電池では、電源供給が追いつかないので、どこからか電源を供給しているはず である。俺は、コンセント周りを重点的に調べる。 テレビ・・・無し 照明・・・無し ロフト上のコンセント・・・無し エアコン・・・ビンゴ! 結局、エアコンと浴室の照明の2箇所にカメラは仕掛けられていた。 取り外したカメラを、亜紀に渡す。 電話なども調べたが、盗聴器はないようである。 盗撮器のタイプから、犯人である元彼は、恐らく200m圏内に潜んでいるはずだ。 亜紀に元彼の居場所を知っているか、尋ねる。 「知ってますよ〜。このマンションの一階に住んでますから〜」 「はぁ?」 元彼と別れたのが3ヶ月前。 ストーカー被害に合い始めたのが引っ越した翌日。 しかし、別れたはずの彼氏が住んでいるマンションに引っ越す意味が判らない。 俺はその理由を、俺は亜紀に尋ねる。 「元彼のご両親が〜このマンションのオーナーなんですよ〜。 部屋代安くしてくれるって言うから〜、引っ越しちゃいました〜。あは〜」 「あは〜じゃねぇよ・・・。まったく、何を考えているんだ? そんなもん、盗撮して下さいって言ってるようなもんだろ・・・」 「初めから人を疑って掛かっちゃ駄目ですよぉ〜」 いや、この場合、そういう問題じゃないし・・・。この女との会話は、やっぱり疲れる。 俺は気を取り直し、カメラを持って元彼の部屋へと向かう。 ピンポーン。 「居ないみたいですね〜」 やはり、元彼は部屋には居なかった。 盗撮カメラを取り外すまでの状況は、観ていたはずである。当然と言えば、当然の結果だ。 「元彼の両親が、このマンションのオーナーって言ってたな? 両親の家は知ってるのか?」 現状、元彼が居ない状態で、部屋の前に居ても仕方が無い。 両親がオーナーならば、元彼の部屋の鍵を持っているかも知れない。 俺は亜紀に尋ねてみる。 「知ってますよ〜。付き合ってた頃に、一度遊びに行ったことがあります〜」 元彼の両親の家は、マンションから500m程離れた場所にあるらしい。 俺は亜紀を伴い、元彼の両親の家に行く。 亜紀の証言と携帯のメール履歴や着信履歴により、半信半疑ながら両親を説得。 元彼の部屋に行き、合鍵で中に入れてもらう。 モニターに接続された専用受信機。 盗撮カメラを電源に指し込み、モニターを両親に見せる。 モニターに映るこの部屋の映像。 これにより、元彼の両親も完全に納得したようだった。 知り合いのした事と言うことで、元彼の両親から元彼を説得すること言う形で、 一応ストーカー事件は、一件落着した。 亜紀の部屋に戻り時計を見ると、すでに午前0時を回っていた。 「あ〜、もうこんな時間かよ・・・。さすがに、終電は無いか・・・。 亜紀、この辺に24時間やってるような店無いか?」 亜紀は女の一人暮らし。さすがに俺を泊めてはくれないだろう。 俺は、始発まで間、漫画喫茶かファミレスで時間を潰そうかと思い、亜紀に尋ねた。 「夜食ですか〜? コンビニは100m先の角を〜」 「違うよ! ファミレスとか、漫画喫茶みたいなとこだよ」 亜紀の話を途中で遮る。 「この辺りは住宅街ですから、そんなお店は無いですよ〜」 状況が判ってるんだか、判っていないんだか、相変わらずの口調で亜紀が答える。 「マジかよ・・・。どうすっかな。タクシーで俺ん家までじゃ、距離あるしなぁ。 亜紀、始発まで泊めてくれないか?」一応駄目もとで言ってみる。 「嫌です」きっぱりと断る亜紀。まぁ、判ってはいたが・・・。 「おま・・・。自分のために働いてくれた俺に対して、幾らなんでも冷た過ぎね? せめて、ベランダとか、玄関なら貸しますくらい言えよ・・・」 「じゃぁ、玄関の外なら♪」 こ、この女・・・。泣かす! 後で絶対に泣かしてやるっ 俺は、肩をぷるぷるさせながら、我慢をする。 漫画ならば、血の涙を流していたかも知れない。 そんな俺のオーラを感じてか、亜紀が妥協した。 「う、うそです・・・。冗談ですよ〜。ろ、ロフトの下でいいなら貸しますよ〜」 声の様子から、大分怯えているのが判る。 亜紀の妥協案で手を打った俺は、小腹も空いた事もあり、コンビニに買い物に行く。 ビールとツマミ、後は亜紀の頼みで、お菓子類いっぱい。 買い物を終え、亜紀の部屋に行くと鍵が閉まっていた。俺は予め借りた鍵を使い、 部屋の中に入る。 シャーシャー。 どうやら、亜紀はシャワーを浴びているらしい。 チャンス到来だ。今時間を止めれば、待っているのは全裸の亜紀。 亜紀の部屋はユニットバスなので、トイレと浴室が一緒である。 浴室に鍵が無いことは、トイレを借りたときに確認したから、間違いは無い。 止まった時の中で、シャワーの水に触るとどうなるんだ? ペプシの時はコップごと移動できた。 恐らく、移動する事は出来るだろうが、量が多い分ちょっと面倒だ。 俺は、シャワーが止まるまで待つことにした。 「喪雄さ〜ん、の、覗いたら駄目ですよ〜、覗いたら警察に突き出しますからね〜」 風呂の中から亜紀の声が聞こえる。 「覗かねぇよ!」 そう、覗く訳ではない。堂々と風呂に入り、亜紀に悪戯するつもりなのだから。 俺はテレビを観ながらビールを飲み、シャワーの音が止まるのを待つ。 ツマミは焼き鳥の缶詰。個人的には青い方が好きなのだが、売り切れだったらしく、 白い方である。 テレビには深夜番組が映っていたが、俺の耳にはシャワーの音しか聞こえていない。 シャー・・・。シャワーの音が小さくなり、やがて止まった。 ついに、待っていた時間が訪れたのだ。 止まれ! 俺は心の中で念じて、時間を止める。 テレビ画面の映像が止まり、辺りに静寂が訪れる。 俺は浴室の扉を開ける。 シャワーは洗面所の横にある。防水カーテンに亜紀の輪郭が写っている。 便器の上に籠が置いてあり、中には脱いだ下着や、着替えが入っていた。 俺は、黄色の丸まった布を手に取り、広げて見る。 プタさんプリント。相変わらずである・・・。 俺はパンツを籠に戻し、防水カーテンを開ける。 そこには、一糸纏わぬ亜紀の裸体。流れ落ちずに止まっている雫が光り受け綺麗に輝く。 胸は前に触った時に小さい事が判っている。 恐らく、AかBカップだろう。 俺は視線を亜紀の下半身に移す。申し訳程度の薄いヘアー。 亜紀に近づき、胸から触る。 揉み応えは無いものの、しっかりと張りのあるお椀型の胸だ。 乳首は小さめで、ピンク色。 指先で亜紀の乳首を摘んだり、伸ばしたりすると心なしか、乳首が硬くなってきたようだ。 次に、亜紀の胸に顔を近づけ、乳首を口に含み、舌で転がし始める。 亜紀の乳首は完全に勃起状態になり、硬くなった。 乳首を口に含みながら、右手を亜紀の下腹部に触ると、濡れたヘアーの感触が指に 伝わってきた。 亜紀の割れ目に沿って指を這わす。 くちゅ。 水で濡れた亜紀の女性器は、抵抗無く俺の指を受け入れた。 くちゅくちゅ。 亜紀の膣内は暖かく、俺はゆっくりと指を上下させる。 砂時計の砂は残り僅か。名残り惜しかったが、俺は浴室を後にする。 現在、部屋の中には俺と亜紀の二人きり。邪魔する者は居ないので慌てる事は無い。 俺は元の位置に戻り、そして、時が動き出す。 「あぅ・・・」俺の悪戯で体に違和感を覚えたのだろうか、浴室から亜紀の声が聞こえる。 「どうした?」 「な、なんでも無いです〜。ちょっと、足が滑っただけです〜」 亜紀の声から、明らかに嘘をついているのが判る。 カラカラ。どうやら、防水カーテンを開けたようだ。 俺は再び時を止める。 浴室に入ると、足を拭いている状態で亜紀が止まっていた。 亜紀は、前屈状態でこちらにお尻を向けている。 これぞ、俺が望んでいた体勢だ。 俺は亜紀のお尻を両手で、思いっきり広げる。 アナルはおろか、膣内まで見えそうだ。 俺は亜紀のお尻に顔を近づけ、舌でアナルを舐め始める。 風呂上りのためか、特に味はしない。 舌を動かし、今度は膣内へ舌を挿入する。 先ほどの悪戯のためか、膣内は明らかに水意外の味がする。 酸味と渋みと言うか、苦味が混ざったような味だ。愛液だろう。 砂時計の砂はまだある。 俺はお尻から顔を上げ、自分の指先を舐め、そして、その指をゆっくりと 亜紀のアナルへ挿入する。 第一関節までは抵抗が有ったが、それ以降はすんなりと指が挿入されて行く。 ゆっくりと指で出し入れする。 明らかに膣内とは感触が違う。 砂時計の砂が、残り少なくなっている。恐らくあと5秒程度か。 息子はすでに限界まで勃起しているが、今からズボンを脱いで挿入する時間は無い。 しかし、問題は無い。時間が動き出したら、再び止めればいいだけだからである。 俺は一度浴室の外に出て、ズボンに手を掛ける。 予め、ズボンを脱いでおけば、その分挿入する時間に費やす事が出来る。 そして、時が動き出す。 「ひゃぁ」浴室から、再び亜紀の声が聞こえる。 「どうした?」俺はズボンを脱ぎながら、白々しく声を掛ける。 「・・・み、水が、背中に・・・」可愛い言い訳だ。 挿入した後は、どんな言い訳をしてくれるのか、今から楽しみだ。 ズボンを脱ぎ終え、準備が完了した。後は時間を止めるだけだ。 俺が再び時間を止めようとした時、辺りから光が消え、静寂が訪れる。 「きゃっ」 「な、なんだ? 停電か?」辺りを見回すが、何も見えない。 「亜紀、大丈夫か?」急に暗くなり、テレビも消えたので、停電でも起きた のだろう。 「大丈夫です〜。多分ブレーカーが落ちたんだと思います〜。暖房つけてたから」 「ブレーカーが落ちたのか」 「喪雄さ〜ん、ブレーカー上げて貰えますか〜?」 「ブレーカーはどこにあるんだ?」俺は、ズボンを履き直しながら問い掛ける。 「玄関の上です〜」 俺は手探りで玄関まで歩き、ブレーカーを探す。 ブレーカーはドアの上にあり、やはり一つ落ちていた。 ブレーカーを上げると、ぶーんと言う音と共に、視界が明るくなり、テレビから 音が聞こえる。 やれやれ。思わぬ邪魔が入った。俺は気を取り直し、浴室の方を向いた。 カチャ。 髪を拭きながら、亜紀が浴室から出てくる。 停電中に着替えを済ませたらしく、牛柄の着ぐるみパジャマを着ている。 元彼じゃないが、俺でも趣味が悪いと思う。 着替えられてしまったのでは、今から時間を止めるよりも、亜紀が寝入るのを待って からの方がいいだろう。 俺は一旦諦め、ビールを飲みながら亜紀が寝入るのを待つことにした。 亜紀はパジャマ姿のまま、俺の横に座り、なかなか寝ようとしない。 さすがに、酔いが回ってきたのか、俺はトイレに行く。 「それじゃ〜、私寝ますね〜」亜紀はようやく寝る気になったのか、ロフトに上がる。 俺はトイレから戻り、残りのビールを一気に飲み干し、次のビールを開ける。 焦る事は無い。亜紀が完全に眠りに落ちてからでも十分だ。 俺は亜紀の寝息に神経を集中する。5分位経過すると、亜紀の寝息が変わった。 どうやら、完全に眠りに落ちたようである。 ロフトの階段までは三歩も歩けば到着する。 俺は気を静め、静かに立ち上がろうとした時、急激に眠気が襲ってくる。 ここで眠ってしまう訳には行かない! 俺は這いつくばりながらロフトの階段まで行き、ロフトに手を掛けるが、ついに力尽きて 眠りに落ちる・・・。 「喪雄さ〜ん、朝ですよ〜。起きてくださ〜い」 顔をぺちぺちと叩かれながら俺は目覚めた。頭の中がぼーっとしている。 亜紀はすでに出勤の準備を済ませたらしく、牛柄パジャマから着替えている。 「頭がぼーっとする・・・」 「え? 睡眠薬の量が多かったのかな〜?」 「ん〜・・・。ん? 睡眠薬?」頭を掻きながら俺が聞き返す。 「はい〜。寝てるところを襲われないように、ビールに睡眠薬を入れました〜」 チロっと舌を出しながら、亜紀が改心の笑顔で俺にVサインを出す。 「睡眠薬って・・・。なんで、そんなもん、持ってるんだよ・・・ つーか、酒に睡眠薬って、俺を殺す気か! ※1」 「最近、元彼ストーカー事件で良く眠れないんで、お医者さんに行って貰って来ました〜 さぁ、もう出勤しますので、起きて下さ〜い」 俺は亜紀に無理やり起こされ、亜紀の部屋を後にする。 亜紀は会社へ、俺は休みを取ってあるので、自分の家へと向かう。 「昼まで寝な直すか・・・」俺はボーっとする頭で自宅までの帰路に着く。 後日談であるが、元彼は両親からこっぴどく怒られ、部屋を追い出されて、今は両親と 共に暮らしているとのことだ。 ※1:別にアルコールと睡眠薬を同時に服用しても、死ぬことはないらしいですが、 直前の記憶を無くしたり、翌日に眠気を残すなどの副作用がありますのでご注意 下さい。
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564 :1 ◆EqIo0VxIUw :12/11/05 17 46 10 ID cWis9VM7【このスレはやる夫鬼武者?です】 } j ヾ / 丶 /. . / j ハ ′ / . . ハノ / / ,ハ ヽ._‐- _ /, -'"., -'" '.ノ // 丶  ̄ /. . ( /'// \ __,. -'''"/ . (ソヽ', / イ | / . . . .ゝ _.. ‐ ´ リ 〈从 . . .', _,.-ァr‐ ´/ `'''- ._ヾ / / | . . . ! __ /. . . /‐-r‐ 、 、{ | . . . .|  ̄ ̄`ヽ._ ,. - ---‐‐ /. . . / / 丶ヽ! . . . ! ./. . . / , ' この子の名前は何にしよう・・・ どんな名前をプレゼントしよう l イl . l / | ;' l .| '; .| '; ; | l ;' .| ∧ .;' | ;' | ;' '; | ; '; | | |二| ;'ミ'; ;' |' _z二三|;'=-'; | / '; ';.{ |. l ミ、|ヽ ' リ ハ、 ';ヽ;ヽ ',゙' 、,___ ', 、___、, "/ ./ j / l ヾ ; ヽ  ̄'' l '' ̄ ̄"´/ / r´/ /ヾ ヽ ',` | -´" ./_/ / ヽ', ! / / i..、 ゙ / ;.' | \ ` -‐ ´ /| ハ ;' | ; .| ヽ , ´ | | '| ,' ;' | ト`. \__ ,イ | | /´ ,' | | |.、_ /ハ | !'; .| ` ‐-、___ ― '´ ';| '; | }三三 私と愛するあの人の初めての赤ちゃん・・・ 男の子だろうか、女の子だろうか 567 :1 ◆EqIo0VxIUw :12/11/05 17 51 31 ID cWis9VM7,/ / | /| l . |. / V i V . , . ∧ l ',l l;;;;ト /. ∧ / l . イ . | Vー---..,,| l V .;! . V . . l l l| !;;;;! / ∧. . l | . . /+‐- ;/| . V ゝ----─‐| テヽ、 l ∧ . V .. l. l リ ヽl;;;;| / ∧ . . | ,ィ / ! -‐ムV . V . . ... __l/_ ` | V! . . V . l l l;;;;| | . .. ∧ . ;イ | ィ'´ V. V 、V i . . /ゝ,,,ェゝ;ェ== 、| . .V ! . . ; .V. . / / !;;;;! | . .. | V ;.ィ'´V -‐ゝlヾ ',V . . ! 、__/' l○;;;;;;;) } ゙l .V ! . / /, -‐ '''' -- ,,_ /;;/ | . . . | ヘ | _ゝ,, ==ヾ、 ',V . ! ゝ .;,;,;,;.ノ ィ / Λ . / / `ー 、_,. l . l .. ∧ ヽ〃f○;;;;;;) l '!V | ' . ... -'‐∧/ Λ / / _ ヽ .V . !V ... ∧ー《. ゝ ,;,;, ノ. l ヽ! '///゚///'゙/`/ / / ,. -‐ .  ̄ . . `V l \ ∧ `゙'', -‐ 、 l ゞ////////; ィ / ン . ... . ∠_ . . . . . . . ヽ∧ \ ; ィ ヽ、 \//゚////ハ l ` ‐-‐ ''  ̄ ,.-'''"/ . / `ヽ、 . 、 . . i\ / `ヽ、 \////ノ ! . ( ;. .-‐'´ `ヽ、 ..... ヽ、 . . !,.ィ´ `ヽ‐<´-‐ ´ ヽ ,.ィ´ `ヽ、.... . . . . / ,.ィ´ ヽ `ヽ ヽ ` ,.ィ´ . / \/ ´ \ . . . . ..... / __,,,,,,,,, -‐' l .. . / ./ \ `ヽ、 . . . /‐- 、..  ̄ ... 入/ . / \ 、 `ヽ、 ヽ . ... ,.ィ´ / .. . / .ノ `ヽ、.. .. . / ー- ヽ、 _ _ ...... ,.ィ´ . ゝ. . / .. . / ... .. __ `ヽ . . / . ..... .... ̄`'' ̄ー- ,,. -‐ / .. . / .... / `ヽ、 .. どんな話を聞かせてあげよう どんなに色んな事を覚えるんだろう・・ どんな風に叱ってあげよう・・ どんな風に褒めてあげよう・・・ どんな話でも聞いてあげよう・・ 私の料理を気に入ってくれるだろうか? 何が好物になるんだろう・・ ` } rミヽ | /イノ{ ノハ ヘ` ` ノ / ` ヾ }ヽ -― イ { ノハ l ヽ / { ハヽ イ リ } ` ´ i { ` ,ィヘ_ -‐´ ヾ、 , イ {{ |//_ ', `ゝi‐- 、 / ヾ二=≧=Tヽ ィ<‐-==!/} `}}ヽ 、 / ヽ > ´ ̄、―-、__}_{o i ̄f"´二 ヽzソ ハ どんな顔で笑うのだろう・・ どんな顔で泣くのだろう・・ 568 :1 ◆EqIo0VxIUw :12/11/05 17 52 28 ID cWis9VM7 ああ・・・・・ 569 :1 ◆EqIo0VxIUw :12/11/05 17 53 35 ID cWis9VM7 ___ ,. -, ─. ‐- .._ . ,. ´ -─-`、○イ. .. ,'. . .、 . ..ヽ . ヽ,.-、,. -===-、 /'´ 〉'. ..j.;ハ 、 .、 ヽ .. .',. .. ヽノ `ヽ / |. .. ..ハ'_,` ヽ i、 ゝ . ! . . ..! !. . j´! ` ̄ リヽ .j ノィ;イ ''⌒` , ⌒ヽ' j;ハ ´ {.ハ ,.-─-、 ノ ) `丶 丶._ _,ノ ィ'´ | .ヽ._ _.ィ´. | ,ゝ-rf‐=| _|-rj‐-、/) / , //_`ヽ_/´ }.} ヽ / i /´` \__,. -‐ '^ヽj. l / . { (ヽ-‐、 j! . \ / .. . | 〉、;r'′ /. .. ヽ ノ丶; j| ハ . ._ - ´ / /  ̄ | !  ̄ヽ ヽ . / / } { '、 i 産まれさせてあげたかった・・・・ 571 :1 ◆EqIo0VxIUw :12/11/05 18 04 25 ID cWis9VM7【やる夫の妖怪図鑑】 , -― ―- 、 / \ / \ / ヽ / 、 / ー―' | / rc、、 、 、 | | ヽ\\ 丶 ヽ. | | l//|.\ン | | .! j /、─ / _ . イ三三ニ=、 ノ/´゜ \\ / ∠三三三三三三ハ /。゚ !ヽJ /三三三三三三三ニ| \ノ/ ヽ__,ノ、__j し' . /三三三三三三三三ニ|\ゝ'、 ノ . /三三三三、三三三三ニ| \/|`ー―― ' /三三三三三、三三三三jレ‐´ ̄ヽ三ヽ 【やる夫】 初っ端から重い!!!!!!!!!!! 二人目の犠牲者 「産女」さんですお! ヽィ´r ヽ. /, / /|/{ / ,}ゞ、V ハ V. ヽ l i l | k,,,_ {' kヅ__ 〉、! i ハ ヽ; V! l. l,' 、__) ''゙ `ノ,. ノ ... } | ハゝ、l ´ ヾ_ ´ lノヾ ム __ ,.、 V ヘアレ. k  ̄l . 、ソ ル' ( べ、 \ V ヘ ゝ、ヽ(_ノ . イノ 〈 /⌒ー ... .| V へ. |\ //イ 「 /"´.... | V .. _/,へヘ} ゙ ´ / __>iー--ニ、、 ゝヘ | ,ゞ'´  ̄ `'ミく ;ィテ´  ̄` ヽ、 ヽ. V i r' ........ 、 ∇'" ヽ. ヘ ゝ, | i ... ...ヽ、ー ..... .....ハ _\ .l | !.. ...... .} `ヘ) ! | 【産女】 全国の赤ちゃんとお母さんの味方 産女です! 573 :1 ◆EqIo0VxIUw :12/11/05 18 13 33 ID cWis9VM7 ____ / \ / _ノ ヽ、_ \ / o゚⌒ ⌒゚o \ | (__人__) | \__ ` ⌒´ __/ / ハ\/Vヽ/; i ヽ | r l l ハ | 7 l | 【やる夫】 蛇帯と同じく人間の感情 気持ちの具現化した妖怪ですお 感情のベクトルが逆方向ですがお・・・・ /_; イ ; イ ヽ / / l / , ィ ;イ ∧ l 、 ヽ ,'/ l ' /,' /,' / / / l l i `', ´/ .l l /‐| メ-X,/ / // | / l i | __l i' 、 !"-、 〃゛ // z=-、 l ィ | l ノ /〃 .|-'"~``ヾ! 〃 , 'z-_、 `/} ;' / -=y l {レ| .; ', ,' 迄z,ヽ_ ./ .;' / / /lヽヽ_lハ iヾ,. | ヾ '‐/ .;' / l . / | ヽ-i ヾ', ` /" / ./ レ' .| .|'、 ` `゙ ‐ 、 / イ ,' | | `、 ー`` /}/,'l .∧ .| | .l \ , ´ ´ !シ ヾl / ;、l ヽ、 , ィ ´l ` / ハl ', ´ / / / _ノ--=、 ', / / /,イ´ ` '、 {'; | / \ ' ヾ; |ミz=、_ 【産女】 蛇帯ちゃんは男性に対する一人の女性の嫉妬心 私は不特定多数の子供を産めなかった妊婦の無念だからねー 574 :1 ◆EqIo0VxIUw :12/11/05 18 18 45 ID cWis9VM7 ,,..-――-..,, / \ / ヽ / ___) ヽ- l /l '´ r .l / ..|. U =≡= =='' ', /`ヽ、__.', ヽ l ./ \ .ヽ. (_ノ--' ノ / /-‐| \、 ____ ,,..-< ./ ./ l l \ | r-ヽ `ヽ / l | ヽ . 、 r'__.. > | ./ iヽ .|_ヽ.イ .〈Y´ i `''1 | | ' l 、 ´ .i | i | | | \ / _,,-ヽ ヽ .i .| .i .|.l | 【やる夫】 そんな妖怪が短刀、匕首に憑いてるわけですがお・・・ 1の考えた設定が重過ぎるし暗過ぎるしグロいので 皆様で脳内保管していただきたいお , ´ _,. ヽ \ / / '´ ', 丶 , ' / i ヽ ヽ /, / j ', i !j . . ;' ,' ,' ハ ! j | リ . .. . . i/l ,ィ /! _jム j,ノ ' . `ヽ . .. . j>レ _j」rjヽj} , . ゝ ヽ . . く ゞソ`V´ i 7ー'. .ノィ. ;' . `> / \ .、 ゝ . . . . .. 〉 . . / 7 /. . _ _ . ヽ / /〉\ ,.、 {_,/レー'´. 」i\ } { {/. /i` ._ (ノ/ /. / | ! \ ヽ '、 \{ j ヽ. ` ー' /. / _ノノ ヽ ハ .、 . \ ' ,. -‐,ァ7. ;/-‐'´ ´ ', ヽ . .; 、{ \_r‐- _/´ / . _.. -‐ , 【産女】 公開する予定は一切ありません!! 576 :1 ◆EqIo0VxIUw :12/11/05 18 26 50 ID cWis9VM7 ., - ―===- .、 / \ / \ j . . \_j \ | . . r‐ミ'/⌒} ヽ ノイ . . . . . . } ノ _ ム .|  ̄`ヽー- 、 __ /了|´ / /ノ ヽゝ .| .ヽ .. .. ..丶 .. .. ..} .. .. | | {____/ { | .. ..l .. .. .. .. .. .. ..! .. .. ..| l く`{ i .| .. .. l .. .. .. .. .. .. l .. .. .. .| l `ソ_ }_/ ー..、`ヽ .. .. /.. . . . .l ヽ >≦--.、ヽ / 二 ..ヽ { .. . . >ー ´ | /ク′ .. .. .. . .\ヽ / . . . ーヽ . | . . . . . .|^ ' .. .. .. .. .. .. . . . . ヽV 【やる夫】 マジでお墓の場所教えてくれお・・・ 参るお・・・ , イ"´ `ヽi | //二⌒` , イ´ ⌒ ; -‐- ヽ / |__, \ / ; / ; / ` ヽ / / / l ム ヽ 〃 ./ | i l ;'⌒'; } '; ', 〃 { l l ;' /| ;' '; | ヽ .'; ', { .| l l /| イ / | .;' '; ト、 ヽ l l l l l 仁;'=|/ミ|/ |;'∠二 レ'=; '; ;' lヾ、 '; i ; ヽ | !' ___ ヽ ' ___ `メ! ./ { ヾ ヽ、 ヽ | ,,ィ' ≠ ミ i ,ィ' ≠ ミ / ∧ ゝ ゛ | r、', , , , | , , , / i、 / ヽ! /∧',ネ` | 彡 マ / ´ ./'`、ヘ ' /` / / '., 、――ァ / ヽ、 7 、 ` ´ , イ ハ} ,-‐‐、 シ | ` 、. / | レ' / ̄´` , レハ ;' .} `‐´, アマハ、,/ ´/}. 【産女】 嫌よ 成仏(アガ)っちゃうから
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何処かでヒグラシが鳴いている――――ざわり、と俺の身体を吹き抜ける秋風が、その季節の訪れを告げていた 俺「…………」スッ 閉じていたまぶたを上げる その瞳に映ったのは――――灰色の、墓石 見慣れた自分の苗字が刻まれた、ただの……いや、『妻が眠っている』墓石だ 「もうすぐ……5年、か」 彼女がこの世を去って、もう5年―――― 「……早いもんだ」 ぼつり、と呟く ……悲しいものだが、5年と言う歳月も過ぎてしまえばそれは一瞬にすぎない ……だがその一瞬のうちに、人々は大きく変わってゆく 俺が住んでいる街も、俺自身も――――『俺の娘』も 赤子だった娘も、何時の間にか幼稚園生になっていた 「ああ、そうだ。今日娘は友達の所に泊まりに行ってるよ」 「悪かったな連れてきてやれなくて……でも近いうちまた来るよ」 「あいつの誕生日の日にまた、な」 娘の誕生日は――――妻の命日でもあった ……妻は娘を産んで直ぐ、亡くなったのだ ……その時のことはあまりよく覚えていない ただ、『娘を育て抜く』と言う意思だけが存在していた 確かに全てを投げ捨ててしまおうと思った時もあった 逃げ出してしまいたいと思った時もあった だがその度に、記憶の中の妻の笑顔が俺を救ってくれたのだ ……だから俺はここに居る ……ここに居るんだ 「………………」 「そうそう、ついこの前の話なんだけどな――――」 それからしばらくの間、俺は彼女に様々なことを話した 家の事、娘が通う幼稚園のコト、娘の自慢の友達のコト、幼稚園であった運動会のコト……話出せば、キリが無い物語の数々 ……瞳を閉じれば、ありありと思い出せる、俺と彼女との記憶 「…………っ」 そして同時に――――涙が、零れ落ちた 「…………ぅ!」 ……考えて、しまった ……もしお前が生きていたら、もしお前が逝かなかったら、もしお前がここに居たら ――そんな幻想を、愚かな夢を……頭によぎらせて、しまった 「は……は……」 「……まだまだ俺も……女々しいな……っ!」 「これじゃあ娘にも笑われちまう」 そう、呟いてみるけれど、とめどなく流れ落ちる涙は、止まってはくれな―――― ――――ヒュゥッ 「……あ」 不意に、俺の涙で濡れる頬を、一陣の風が撫でた 優しく吹き抜けたその風はまるで――――手のひらの感触のようだった 「……ありがとな、もう大丈夫だ」 袖で涙を拭う 「…………」 そうだな……いつでもお前は、俺を支えてくれる…… ありがとう 瞳を閉じて、もう一度お祈りをする 「……さて、そろそろ帰るよ」 空を見上げてみれば、オレンジ色の空は既に薄暗い闇に染まっていた そろそろ夕食時だ 今日は娘が家にいないし、久しぶりにどこかに飲みに行こうか……なんてコトを、考えてみる 「じゃあな」 俺は踵を返し、下り坂を降りてゆく 彼女が眠る霊園は、街を見渡せる丘の上にあるのだ 家々の明かりが暗闇の中に光り、そこには現代の社会が生み出した一種の芸術的な光景が存在していた 「……綺麗なモンだな」 人口が多いと言う訳では無いこの街だが、それでも眼下の夜景は美しかった 東京やニューヨークみたいな都会の夜景を、百万ドルの夜景だかなんだか言うが、そんなもの我が故郷には劣る 妻との、家族との思い出が詰まったこの街は、俺にとってかけがえのないものなのだ 「……ん?」 ……そう言えば、今は何時だろうか? ふと気になった俺は携帯を取り出し――――電池が切れていることを思い出した 「…………」 はてさてどうするか 別に時間などそこまで重要ではないが、一度気になりだしたコトを止めるのは難しい 昨日まで腕に巻いていた腕時計は今朝方その役目を終えていた さてどうするべきかと考えていた俺の脳裏に、一つの考えが浮かぶ……成る程、そう言えばこの手があったか 思い立ったが先、すぐさま上着の内ポケットに手を突っ込み、中に入っていたそれ――ホワイトカラーの携帯電話だ――を取り出す 先日買い替えた携帯電話、その先代を適当に突っ込んでいたのだ(ちなみに今使っている新型はブラックカラーのスライド式。中々スタイリッシュ(笑)なデザインと使いやすさを気に入り買った) ……それはともかくまずは時間だ 電源を入れ、少し後点灯した画面に時刻が表示される 18時40分 ……中々良い時間だ 「行くか」 パタン、と折りたたみ式のソレを閉じ、ちらちらと星が浮かび始めた夜空を見上げながら坂道を下ってゆく……星座はよく知らないが、これも綺麗だな……俺の星座は浮かんでいるかな―――― ピリリリリリリ…… 「……ん?」 この音は……携帯電話? リリリリリリリ…… ……間違いない、この音色には聞き覚えがある ……まぁ早い話、俺の携帯から鳴っているのだ 「よっ……と」 ゴソゴソとポケットを漁り、黒色のフォルムのソレを取り出す ――――しかしどうにもおかしい 確かコレは電池切れだったはずだ ……まぁいい、とにかく今は電話に応えなくては 仕事先だったら大変だ ちら、とディスプレイに映る発信者の名を見る そして、困惑した ……本来そこに映っているはずの発信者の電話番号 その11ケタの表示が――――文字化けを起こしていたのだ ……故障か? だとしたら勘弁して欲しい つい最近買ったばかりなんだぞ、コレ 「まったく何処の誰だよ電話してきた奴は……」 通話ボタンを押し、右耳に携帯を押し当てる 「はいもしも――――」 ザ……ザザ……ザ……ザザ…… 「……ん?」 ……なんだ?ノイズ音? スピーカーからは、途切れ途切れに不快なノイズ音が聞こえてくる なんだ、ただのイタズラ電――――――ぐっ!? ……ザ 「……うっ……ぐ……!」 ザ……ザザザザ……ザ…… ……痛い ザザ……ザザ……ザ……ザ…… 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!!! ザ……ザ……ザ……ザザザザザザ…… 「頭が……割け……る……っ!」 ザ……ザ……ZAZA……zaZa……Za……ザ…… 「ぐ……あ……あ……!」 ZA……ZAzAZa……ZAza…… 「あ……あ……あああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!」 ――――――ブツン …… ………… ……………… 「――――ッ!!!」 意識が、覚醒した 荒い呼吸を繰り返し、ようやく我に返る 「……う……っ」 ……何が起きた? ……そうだ、俺は突然頭痛に――――あれは一体なんだったんだ? 尋常じゃない痛さだった 例えるとすれば脳味噌に針をぶっ刺しそのままシェイクされたような――――要するに、死ぬほど痛い頭痛だ ……いや、それにしたって何か原因があるはずだ 過労か?……違う、健康管理にはかなり気をつけている それに俺は生まれてこの方病気にかかったコトは無い、その線は薄いだろう…………いや、まさか まさか俺は――――――重病!? いやいやいやいやいやいやいやいや それは不味い、マズ過ぎる!! 俺には娘がいる!彼女を遺して死ぬ訳にはいかないんだ! ……妻と約束したんだ! 「――――っ!!」 飛び起きる ……如何やらここは病室らしい 純白のシーツとベッド、カーテンがソレを物語っている もし俺がぶっ倒れてここ―恐らく地元の病院だろう―に運び込まれたのなら、大変だ 娘に心配されてしまう そうだ、とりあえずまずはナースコールを――――って、見た所ベッドの周りにはボタンらしきものが無いな ……仕方が無い ここは一旦部屋から出てみるか カーテンが閉じられているので部屋の様子は解らないが、部屋の明るさからして今の時刻は昼 ひとまずは医師を探さなくては ベッドから這い出し、カーテンに手をかけようと――――した所で ギイィィィ……ッ 左側から、扉が開く音がした 誰かが部屋に入ってきたのだろう、足音がこちらに近づく シャーッと小気味良い音と共に閉ざされていたカーテンが開いた 「あら……起きたの?」 「あ、はい。今起きた所です」 入室者は、薄桃色のナース服を着た女性だった この病院(?)の看護師だろうか 「身体の方は大丈夫?」 「今の所は、特に」 身体に違和感は無い 「そ、良かった良かった」 「あの、貴方は……」 「私?私はフェデリカ・N・ドッリオ。まぁ、宜しくね」 そう、片目を閉じながら女――――フェデリカさんは言った 見た所歳は10代後半で年下のようだが、ここのナースのようだし、 敬語を使う……ちょっと待て、10代後半でナースっておかしくないか? ……まあいい それに……フェデリカ? どう見ても外人の名前だ いや、本人もよく見たら東洋人の顔じゃない なんとなく名前の響きからしてイタリア人か? ……それにしたって日本語が上手いな 医療の国際化が進んでいると聞くが、どうやら本当みたいだ ……とにかく まずは自分自身の状況について尋ねなければ 「俺は……どれぐらい眠っていたんですか?」 フェデリカ「んー?君が私の部下に運ばれてきたのが今日の朝だから……6時間ぐらいかな」 6時間も!? いや待て、確か自分が気を失ったのが昨日の夜だから……ひょっとすると俺は一晩中あの下り坂でぶっ倒れていたのか? これは……かなり大事になりそうだ フェデリカ「それで、どうして貴方はあんな所で倒れていたの?」 「墓参りの後坂道を下っていたら急に頭痛がして、そのまま……」 まさか、何かよくないモノでも憑いたのだろうか、霊園だけに フェデリカ「墓参り?」 「ええ、そうです」 フェデリカ「……妙ね、この辺りに墓所は無いはずだけど」 「……はい?」 フェデリカ「それに、話によると貴方が倒れていたのは坂道じゃなくて私達の基地の真ん前よ?」 「あの、言ってる意味がよく……」 「「………………」」 沈黙 看護師は口元に手を当てて考え事をしている ……何故か嫌な予感がする フェデリカ「ちょっと、簡単な質問に幾つか答えてくれる?」 「……わかりました」 フェデリカ「ありがと、それじゃあ……名前は?」 「『俺』」 苗字、名前、二文字ずつのよくある名前だ フェデリカ「歳は?」 俺「26」 フェデリカ「生年月日は?」 俺「1985年6月6日」 フェデリカ「…………え?」 不意に、看護師が素っ頓狂な声を上げる ……どうしてそんな変な目で俺を見るんだ? 今の答えに何もおかしなことはなかったはずだ フェデリカ「あの、もう一度言ってくれない?」 俺「1985年6月6日!……どうしたんですか?何もおかしなことはないでしょう?」 フェデリカ「ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って!!」 ぐわしっ!と両肩を掴まれる ……今気づいたがこの女、かなりの美人だ フェデリカ「き、今日!」 俺「……?」 フェデリカ「今日の日付を教えてくれない!?西暦も含めて!」 何故そんなことを聞くんだ?カレンダーでも見ればわかることだろう ……まあ、別に大したことでも無い 俺「今日は……2011年の9月20日ですよね?」 フェデリカ「――――――っ!!!!」 後ろによろけるフェデリカさん ……ちょっと待ってくれ、あんたのその反応はまるで――――まるで――――いや、まさか、そんなことは…… ある筈が無い フェデリカ「ね、ねぇ、それ……本気で言ってるの?」 俺「……ええ」 フェデリカ「………っ」 俺「……まさか、今日は2011年9月20日ではない、とでも言うんですか?」 彼女はゆっくりと――――頷いた それ即ち――――肯定 先程の俺の不安は、的中した フェデリカ「今日の、今日の日付は――――――1944年10月5日よ」 俺「…………え?」 ……聞き間違いか? 俺の耳が狂ってなければこの女は――――今日の日付を、1944年と言ったんだぞ? そんな馬鹿な、今が50年前だと? 俺「何を、巫山戯たことを――――」 フェデリカ「ふざけてなんて、いないわ」 俺「っ!!」 フェデリカ「今日は、1944年10月5日。この事実に嘘偽りなんて、ないのよ」 俺「……ちょっと待ってくれ!あんたの言ってることが本当だとしたら俺は――――」 未来から、来たことになるんじゃないか 俺はそう吐き捨てようとしたが―――― ボタタタッ 「「――――――え?」」 ――――急に俺を襲った違和感で、それは叶わなかった フェデリカ「あ、あなた…………」 フェデリカさんは、困惑している 恐る恐る視線を降ろすと―――― 俺「!?」 そこには――――血に染まるシーツがあった 慌てて鼻に手をあてる ぬるり、とした感触 驚いて鼻から手を離し、その手のひらを見ると……真っ赤な血で濡れていた 鼻血だ ……そうか、さっきの音は 俺の鼻腔から鮮血が垂れ落ちた音だったのか 俺「……は……は」 ……なんだよこれ ちっとも止まる気がしない まるで、滝の様に流れ落ちてくる 俺「……んだよこれ……なん……だよ……こ……れ」 ぼふんっ フェデリカ「ちょ、大丈夫!?」 身体の全身から力が抜け、だらしなくベッドに横たわる 俺「あ……あ……あっ」 がたがたと、身体全身が震え始めた ……ひどく、寒い 鼻からはやはりとめどなく血が流れ、俺の肉体は悪寒に蝕まれる まるで真冬の寒空に裸で放り出された様な――――異質感 フェデリカ「――――っ!凄い熱!!」 フェデリカさんの柔らかい手のひらが、額に触れる ……何処か、心地いい フェデリカ「待ってて、今人を呼んで――――――」 ……待ってくれ ……今、俺を――――――独りにしないでくれ フェデリカ「――――っ!」 血濡れた右手で、彼女の細い手首を掴む 俺「独りに……しないで……くれっ!」 何故だろう、凄く心細い 20代も後半と言う歳だと言うのに、まるで子供だ 朦朧とした意識の中で、そんなことを考えるが……一向に体の震えは止まってくれない フェデリカ「……大丈夫、私がついてる、だから――――安心して』 彼女はそう言うと、俺の右手を両手で握り返した 右手が柔らかい感触に包まれる …………だが、それでも 体躯を蝕む悪寒はよりいっそう、強くなって―――― 俺「……あ」 ――――――いかない フェデリカ「!!震えが……止まった?……だ、大丈夫!?しっかりして!」 身体の震えは、止まった 溢れ出ていた血の流れは、徐々に収まっている 身体を襲っていた悪寒も、何時の間にか消え失せていた 『その代わり』―――――― 俺「……熱い」 フェデリカ「え?」 俺「身体……が……熱い……っ!!」 焼け付くような痛みが、体全身に駆け巡っていた フェデリカ「っ!!」 俺「が……あ……あ……あ゛あ゛……っ!」 たまらず瞳を閉じ、痛みに耐える 身体を燃やすかのような業火の激痛 涙が滲む 俺「ぐ……う……う……っ!」 どうにか薄目を開け、滲んだ視界で俺は――――――見た フェデリカ「えっ!?」 オオオオオオオオッ…… ――――俺の右手に、俺の腕に、俺の肉体に ――――青白く輝く、光を 俺「……ぐあっ!?」 ……なんなんだ、この光は そう考える暇もなく、激痛が続く フェデリカ「嘘……この光って……まさか……」 フェデリカ「魔力光!?」 驚愕の表情を浮かべるフェデリカ ランセルノプトだが魔力光だがなんだか知らないが、早く、早くこの痛みを――――消してくれ!! 早く――――早くッ!!!! ズ……オッ! 俺「う……ぁ……あ゛……あああああああああああっ!!!!!!!!」 最後の、雷が落ちんばかりの痛みと共に―――― ずるり、と 俺の肉体から何かが――――生えた 俺「……あ……あ……あ……っ?」 『生えた』 我ながら、可笑しな表現だと思う だが、俺が感じた異変を表すには正にその言葉が的確であったのだ フェデリカ「使い魔の契約……」 ぼつり、と呆然とした彼女が呟いた 俺「……う?」 腰のあたりに、違和感を感じる 朦朧とする意識の中で左手を背中にやり、ソレを掴む 俺「………………」 ぐいと引っ張って、手の内のソレを――――見た フェデリカ「……この、使い魔は――――まさか」 ソレは白、だった 何かの動物のものだと思われる、白色の――――いや、『白銀』の、尾 手触りは滑らか――まるでこの世の動物のものではない様な、異質さ だが、この尾には見覚えがあった 犬でも、猫でも、鳥でも、魚でもない そう――――――『馬』の尾だ 白銀の、馬の尾 俺「…………っ」 恐る恐る片手を頭に持っていき、俺は――――触った 手に残るは毛の感触、そして刺激を感受する、我が脳 そう、俺が触れたのは……本来そこに存在する筈が無い、動物の……耳 人肌にはあり得ない温かみを持つ、耳 恐らくは腰に生えた尾と同じ、馬のものだろう そして そして何よりも重大なのは―――――― 奇怪な耳を触れた後、虚空を彷徨った左手が掴んだ――――硬い、感触 俺の脳味噌は……石の様なその感触から、その形状から……ソレの正体を叩き出した それ即ち―――――― 『角』 フェデリカ「ユニ……コーン……」 彼女のつぶやきを聞きながら…………俺の意識は闇へと落ちていった
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248 :リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] :2007/12/19(水) 02 00 10 ID lUt+bHho 炸裂超人アルティメットマン 第一話 見よ!炸裂の巨大変身 登場巨獣 超ゴム巨獣 マノーン 「ああ、寒い寒い・・・ったく、この季節はやってられないなあ本当に」 僕、東条 光一はそういって今の今まで寝ていたうすっぺらいせんべい布団を折りたたむと顔を洗い 三畳一間の部屋の隅に押し込められたちゃぶ台を引っ張り出して食事の用意を始めた。 冬のこの季節、暖房もない中で朝早起きするのはとても辛い事だと思う、しかしこうしなければいけ ないのも事実だ、などと冷蔵庫から取り出した納豆と、炊飯器から取り出した温かいご飯を食べながら思う。 モルタル張りの三畳一間、狭くてぼろい上にアスベストも使っているようなアパートの中で僕が唯一安らげる 瞬間は食事時だけだった、だってまた今日もあの人たちがここに来るのだ…ほら、さんにい、いち…。 「後五分で食事を終わらせてください、それからすぐに現場に出発です!」 ばあん、と鍵がついているようでついている意味のないドアを開けて、今日もガスマスクを装着した男だか 女だかわからない彼ら…対超常現象特務機関…通称JCMの隊員が僕の元に仕事を持って押しかけてくるからだ。 「はいはい、了解しました。それではまた七分後に…」 「今日もよろしくお願いします、それから窓の落書きの方ですが、今しがた何とかなりましたので」 「それはどうもありがとうございました…それではまた」 もう一度ばたん、と大きな音を立ててドアを閉め、隊員は去っていった…僕は急いでご飯を書き込んで食べると 歯を磨き、お茶を急いで飲んで、アパート近くの貸しガレージに向かった。その際に一度アパートの窓を確認する。 「巨獣に暴力を振るう宇宙人はこの星から出て行け」 そんな風にかかれた赤い文字は綺麗に消えていた、夜のうちに隊員さんが消してくれたのだろう、ありがたいことだ。 でもどうせまた放っておけば同じように落書きは書かれる事になる、酷い日なら窓いっぱいに張り紙をされたり、石を 窓に投げつけられることもあるだろう。命がけで守ってあげた人々にそんな事をされるのは悲しい事だった、でもそんな 行為が日常的に行われている事がもっと悲しかった。 宇宙の銀河のはるかかなたにあるアルティメット星、そこから送り込まれてきた父は裏次元より現れる地球の侵略生物 通称 巨獣と戦い…僕が中学生のときにその大元である裏次元総帥を倒して、たった一人、苦しみながら死んでいった。 そして後釜である僕はその後すぐに巨獣の残党を狩るべく、二代目あるティメットマンに任命され…こうして日夜人々を 守るために、巨大ヒーローアルティメットマンとして戦っていた。 でも、その生活はあまりにも寂しいものだった 249 :リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] :2007/12/19(水) 02 02 09 ID lUt+bHho 炸裂超人アルティメットマン 第一話 見よ!炸裂の巨大変身 そんなことを考え始めても仕方ない、そう思い直していそいで貸しガレージに向かう、シャッターの 開けられたガレージ内部では僕の愛車…マイティワン号のエンジンが先ほどのガスマスクの隊員さんに よって掛けられていた、僕は急いで運転席に乗り込む。 「それではさっそくですが今日の任務を…今回の巨獣の発生場所は吊下市東部の山林で…」 「はい、わかりました、それじゃあ…テイク!オフ!マイティーワン!!」 ゴオオオオ!!凄まじい音と共にエンジン部が火を噴く、それと同時にマイティワン号は空中めがけて 飛び出し、内部に搭載された自動ナビゲーションシステムで一直線に巨獣の発生した場所まで飛んでいく… 見た目は古臭い白黒のダッジだが、空を平然と飛んだりするあたりなかなか侮れない、父から譲られた宇宙製の強力な僕の相棒だ。 「後二十秒で現場に到着します、後は任せてください」 「はい、言われなくても解っていますよ…アルティメットマン」 隊員さんとはそれだけ会話をすると、僕はマイティイワン号のドアを開き、タイミングを計って空中からに地面めがけて一気に 飛び降りた。その目下には巨大な黒い烏賊に人間の足が生えたような生物…別名、巨獣が森林をなぎ倒しつつ、今か今かと僕の登場を待っていた。 「チェーンジ!!アルティメーットオーン!!」 僕は空中でポーズを決めながら変身の言葉を唱える、アルティメット星人特有の音声認識パスを認識した僕の体は一気に巨大化し。40メートル の巨体、炸裂超人アルティメットマンへと変化した。 「二ョー!!」 「アーッ!!」 僕は巨獣と正対してファイティングポーズを決めた、じりじりと間合いを詰める僕に対して巨獣はすばやく手の部分に当たる触手を伸ばす、鉄鞭の ごとく迫るそれを僕は振り払うと一気に間合いをつめ、腰部分にタックルをかました。凄まじい音と共にもんどりうつ二人、しかし僕はすぐさま立ち 上がると巨獣の頭をヘッドロックして強力な拳骨で殴りつける、二ョー!!という絶叫を上げて巨獣は触手で僕の腕を叩くが、攻撃を繰り返すほど その抵抗は弱まっていく、巨獣の頭部から血が噴出し、力がだいぶ落ちてきたころあいを見計らって僕は一気にヘッドロックをはずして腹部にストレート パンチを決めると、両手をクロスさせて、必殺技であるアルティメットレーザーを放った。 「アルティメーット!クロスファイアー!!!」 「二ョー!!」 アルティメットレーザーを真正面から食らった巨獣は、ボーン!!と凄まじい爆音を上げて吹き飛んだ、すかさず僕は両手から威力の低いアルティメット ファイヤーを噴出してその肉片を焼き尽くす、こうして後片付けも終わり、僕の今日の仕事はひとまず終了となった。 「お疲れ様でした、それではまた」 人間の姿に戻ってしばらくたたずんでいると、マイティイワン号にのった隊員さんがやってきた、僕は彼を本部に送り届けるとガレージに戻り、そして また呼び出しがあるまでひとまず休憩を取る事になる。 一日に最低一回は異次元生物の巨獣と命のやり取りをする、それが僕、アルティメットマンの主な仕事だった。 250 :リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] :2007/12/19(水) 02 03 53 ID lUt+bHho 炸裂超人アルティメットマン 第一話 見よ!炸裂の巨大変身 マイティワン号をガレージに置くと、僕はその足で商店街へ夕食の買出しに走った。本当は 少ない給金を節約するためにスーパーで買い物をしたかったのだが、人が多いところに行けば畏敬 と恐怖の念をこめた人々の視線にさらされるのはどう考えても明らかだった。 「はいよ、今日も巨獣をやっつけてくれたお礼だよ!」 「すいませんね、いつもいつも…」 それにスーパーに比べれば少し値段は張るが、商店街の八百屋のおじさん達は僕を恐れずに接して くれるし、たまにおまけをつけてくれたりもする、数少ない優しい人たちだった。 「それじゃあな、また来いよ!!ヒーロー!!」 そんな言葉をかけてもらい、商店街を後にして僕はアパートへと向かった、自分自身でこういうの もなんだが、人にヒーローと呼ばれる事はとても嬉しい事だった。 化け物、怪物…子供のころからそう呼ばれていじめられる事は当たり前だった、母さんもそれが嫌 で僕が小さい頃に家を出て行方知れずになった。 暴力を振るう異星人は脅威に過ぎない、そういわれて日夜監視され、今まで家族二人で住んでいた 小さな家も、脅威に予算を使う事はないと言われて取り上げられた。 気がつけばアパートと、怪獣退治と、商店街を往復して過ごす日々の繰り返しが…父さんの死んだ日からもう十年も続いていた。 …人には言えないけど、もうしんどかった、ボスが死んだというのに毎日最低一体は現れる巨獣に対して、365日も戦い続けなくて はならないのは苦痛だった。 せめて腹を割って放せる友人が欲しかった、信頼できる恋人が欲しかった…それでも、それはこんな生活を送る僕には到底かなわない夢だった。 ふう…と小さくため息をつく、その表紙に買い物袋からオレンジが転げ落ちた、ころころ転がるそれは…一人の女性の足にぶつかって運動を止めた。 「あ…あの、その…」 「はい?……あらあら、これですか?」 困った事に僕は女性と話すことに慣れていない、どうにも話をしようとすると緊張して言葉がどもってしまう…女性の手に握られたオレンジをひったくる ようにとって、大きくお辞儀をして、できるだけ足早に通り過ぎようとした瞬間…。 「いえいえ、こちらこそです」 そういってお辞儀するその女性と目が会った…切れ長の瞳と長いお下げ、地味な服装と、それにマッチングするかのような優しく儚げな表情…一瞬で、彼女を そこまで認識したくなるぐらいに彼女の事を…僕は好きになった。 いうなれば一目ぼれという奴だろう、しかしその感情を抑えて、僕は急いでアパートに向かって走り出した。 「あ…あ、ありがとうございましった!!」 一応お礼を叫んでみるが、声がどもり、上手く発音が出来なくなる…最悪だ、きっと変な人だと思われるだろう・・・でも、でもそれは状況から言えば仕方の無い 事だった。それに優しそうな人でも、きっと僕の正体を知れば逃げ出すだろう…そんなことは今までにごまんとあった、女性なら余計にだ、だって僕は実の母さん にも逃げられたんだから…だから良かったんだ、こうして上手く放せずにあそこで別れれば、きっと辛い思いをしなくてもすむんだから…。 僕は必死にそう考えて、安住の地であるボロアパートに戻った、その目はうっすらと涙でぬれていた。 251 :リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] :2007/12/19(水) 02 05 53 ID lUt+bHho 炸裂超人アルティメットマン 第一話 見よ!炸裂の巨大変身 夕暮れ時、僕は台所に立って夕食を作っていた、今日のメニューは奮発して買った豚コマで作った生姜焼きだ きっとコレを食べれば元気が出て、今日のことも…。 どんどん!!と僕の思考をぶった切るようにドアがノックされた、一体こんな時間に誰だろうと僕は考える… 新聞の勧誘、なんてうちには来た事もないし、それに隊員さんだったらもっと一気にドアを開けるはずだ。 「はーい」 また変な団体の人とかだったら嫌だなあ…そう考えながらドアを開けた、その先には、昼間であった、あの可愛らしい 女性が笑顔で鍋を持ちながら立っていた。 「こんにちは、隣に引っ越してきた亜佐巳というものです、よろしければこれ、食べてください」 「!!!へあ?あ。あの…あなたは…昼間の?」 「ああ!あのときのお兄さんでしたか、奇遇ですね」 言葉が出ない、そして気分が落ち着かない、そもそもなんでこんな安アパートにこんな人が引っ越してくるんだ?もう わけがわからない?ああでもとりあえず、きちんと挨拶しなくちゃ…取りあえず混乱しながらも何とか声を出した。 「あ、は、はい…自分は、自分は東条というものです、こちらこそ何かあったときはよろしくお願いします…それからひ、昼 間はどうもありがとうございました」 「いえいえ、ああそうそう、これ、特製の肉じゃがです、よかったら食べてください」 「は…はい、どうもありがとうございます…」 やっと上手く言えた、嬉しくて涙が出そうになる…ようやくその一言を話すと同時に僕は…ふと疑問に思ったことを聞いてみた。 「で、でもなんでこんな所に引っ越してきたんですか…僕が、僕が怖くないんですか?」 「いえ、全然。だって東条さんってヒーローなんでしょう?皆を守るために日夜戦ってるなんて凄いとは思うけど、怖いなんて 全然思えませんよぉ……あ、あれ?玉ねぎでも刻んでたんですか?ハンカチかしますか?」 「い…いえ…お気になさらずに…ぐず…う、うわあああああああん!!」 その一言に涙が出た、そういってくれる女性に会ったのは初めてだった…そして僕はそこで崩れ落ちて泣いた、彼女は終始心配そうに 僕を眺め、わざわざ自分の部屋からハンカチまでもって来てくれた…自分が凄くかっこ悪かったけど、それでもそばにいてくれる彼女に 何故か僕は、かすかにだが安息感を覚えた。 …こうして僕と彼女、阿佐巳 巴は出会った、この出会いが運命だったのか、それとも必然だったのかは、いまだに解らない。 第一話 END 252 :リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] :2007/12/19(水) 02 08 25 ID lUt+bHho 炸裂超人アルティメットマン 第二話 気をつけろ!そのサンタは本物か? 登場巨獣 毒ガス巨獣ワッギア 変身巨獣ザヤッガー 「デアアアー!!!」 今日も今日とて僕は一人、アルティメットマンに変身して巨獣と戦っていた 今日の敵は大きな羽根を持った巨獣だ、羽にあいた無数の気孔から毒ガスを吹き 付けてくるが、空気より重い毒ガスは発射されれば下に流れてしまうのがオチだ 僕は出来るだけ距離をとると手を上空にかざした。 「アルティメット!ジャベリンー!!」 そう言うと同時に僕の武器であるジャベリンが手のひらの上に召喚された。僕は それを力いっぱい巨獣めがけて投げつける、まともにそれを顔面に受けた巨獣は毒 ガスを噴出するのを止めて、血を撒き散らして暴れる。僕はお構いなしに跳躍、一気に 敵めがけてドロップキックをお見舞いした。 「ウゴアアアー!!!」 ジャベリンごと頭部を打ちぬかれた巨獣はようやく絶命したのか動きを止める、僕は 振り返るとその死骸をアルティメットファイヤーで焼き尽くした。 今日もまた一日の仕事が終わる、でも今までの日とは…一日を生きる充実感というものが ここ一週間で大きく変わっている気がした。 「おかえりなさい!光一さん!」 家に帰ってみると、そこにはエプロンをした巴ちゃんが昼食を作って待っていた。 「いつも悪いね巴ちゃん、でも本当によかったのかい?」 「構いませんよ、だって光一さんはさっきもあんなに怪獣退治を頑張ってたじゃない ですか?そんな人のお昼を作ることなんて全然わるいことじゃあないですよ」 「ははは…それじゃあありがたくいただくとするよ…」 僕はそういって用意された食事を食べるべく、彼女からもらった座布団に座った、彼女が 引っ越してきてもう一週間になるが、ここまで彼女が僕に色々してくれるという事は、ある意味 妄想すら飛び越えていた。 彼女の前で泣いてしまったあの日から、彼女は僕の世話を焼いてくれた、大変なら…朝ごはん …作ってあげますよ…その一言がきっかけで、彼女はやたらと僕の周りの世話を焼いてくれる事になり… 気がつけば家事はおろか、朝も早くから朝飯の用意すらしてくれるという始末だった。 そんな彼女には言い表せないくらい感謝していた、こうして彼女と話すようになってから、だいぶ女性と 話すときにどもる癖も治ってきたのが嬉しかった。 「でも毎日悪いねほんとに…その分今日の午後は暇だから、どこか買い物に連れて行ってあげるよ」 「ええ!本当ですか?」 「うん、で、でもあんまり高いものは勘弁してね」 いつも彼女はご飯を作ってくれた分の代金を受け取らなかったので、お礼に何かを買ってあげよう、僕は 前々から計画していた事をようやく打ち明けた。嬉しそうな彼女の顔を見るだけで僕は本当に幸せな気分になれた。 253 :リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] :2007/12/19(水) 02 09 57 ID lUt+bHho 炸裂超人アルティメットマン 第二話 気をつけろ!そのサンタは本物か? それから一時間後、変装した僕と巴ちゃんは大型ショッピングモールで買い物を楽しんだ といっても予算の都合上あまり彼女が欲しがるものを買ってあげられなかったのが残念だった… と言うか逆にセーターとコートを買ってもらってしまい、なんだか巴ちゃんに余計悪いような気がした。 「気にしないでくださいよ、私のわがままですから」 「ははは、どうもありがとう…」 その後も色々な店を巡りながら、僕らはくだらない雑談を続けた。彼女は普段在宅でデザイナーの仕事を しているらしく、自家にこもりがちだったため、環境を変えるために一人暮らしをしようとしてアパートに引っ越してきたと語った。 「私…昔から引きこもりがちだったから…憧れだったんです、世界を救う、子供達の誰もが一度はあこがれるヒーローに…」 「…ごめんね、その憧れが…本当はこんなにかっこ悪くて、貧乏なオジサンでさ…」 「そんな事有りませんよ!本当にかっこ悪い人間って…そんな風に身を粉にして人を助けたりしませんから!あんまりメソメソして るとカビはえますよ!!そういうのはよくないです!!」 「…うん、それもそうだね…よし!!もうめそめそなんかはしないぞ!!僕は!きっと巨獣を全滅させて見せる!!」 「そうそう、そのイキですよ!!そうしてる方が凄くかっこいいです」 こうして彼女と話していると凄く自分が癒されていく事に気づいたのはいつからだろうか?…心のどこかではいまだに彼女を信用できない までも、それでも、この幸せな時間が続いて欲しいと、彼女にそばにいて欲しいと願う自分の気持ちは…いままでの暗い日々とはまるで違う 光に満ちたものだった。 「はいはい押さないでね!はい!メリークリスマス!!」 そんなことを考えている目の前で、子供達にプレゼントを配って歩くサンタの衣装を着た老人が見えた、何かの宣伝か、それとも試供品の配布か? プレゼントを配って歩くサンタの周りには子供達が集まっていた。 「サンタさんかあ…ある意味この時期じゃあ僕なんかよりも…?」 「…どうしたの?光一さん?」 おかしい、何かがおかしい…直感的にそう感じた光一は、急いでサンタからプレゼントをもらった子供に近づくと、その手に握られたプレゼントを奪い取った。 「うわあ!!何するのさ!お兄ちゃん!」 「あ、アンタ!うちの子に何するのよ!!」 ヒステリックに声を上げる母子の叫びを無視して光一はプレゼントを踏み潰す、グシャリと音を立ててつぶれる箱の中から這い出してきたのはミミズのような 生物だった。 「貴様…コレは何だ!!何をたくらんでいる!!」 254 :リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] :2007/12/19(水) 02 11 55 ID lUt+bHho 炸裂超人アルティメットマン 第二話 気をつけろ!そのサンタは本物か? 老人に詰め寄る光一、老人はにやりと笑うとこう呟いた。 「やれやれ…せっかくの作戦が台無しだなあ…失礼だと思いますよ、そういうのは」 老人はそう言うと同時に服を脱ぎ捨てた、その下に隠れていたのは正方形に恐竜の手足が 生えたような姿…間違いない、こいつは巨獣、しかも上級タイプの知能の高い強敵クラスだ ひい、というと同時に子供達はプレゼントを慌てて投げ捨てようとするが、箱から飛び出た触手が 絡んで手からはなれないらしく、子供達が次々に叫び声をあげた。 「うわああ!嫌だああ!!」 子供達は次々に悲鳴を上げながらぎこちなく歩き出し、巨獣の前に一列に並ばされた。巨獣はにやつき ながら手に持ったサーベルで子供を威嚇する…どうやらあのミミズ触手は触れた子供を操る力があるらしい。 「さあ降伏しなさいアルティメットマン!いや東条光一、コレは脅しではありませんよ。もしも下手に動こう とすればこの子達全員の舌を噛み切らせる事も可能なんですよ!!」 「……わかった、降伏しよう…」 「はははは!ちょろいものですね!さあそのまま一気に―」 ごん!!という鈍い音と共に巨獣の頭部に鈍痛が走る、一瞬にして回り込んだ巴が手に取った鈍器で思いっきり巨獣を 殴りつけたのだ。 「今です!!」 「うおおおおおお!!!チェーンジ!!アルティメットマイティ!!」 そう叫ぶと同時にマイティワン号がどこからともかく現れて巨獣を弾き飛ばした、轟音を上げて上空に舞い上がる マイティワン号。頼もしい相棒である彼のことだ、きっと被害を少なくするために敵を山奥にまで運んでくれたのだろう。 「ごめん巴ちゃん!この埋め合わせは必ずするから…」 そう言うと同時に光一は変身、一気に空に向かって飛び立った。 「まったくもう!アルティメットマスクだかなんだかしらないけどいい迷惑よ」 「本当、巨獣の殺し方も残酷だし、早く星にでも帰ってもらいたいわ!!」 騒然としたショッピングモールの通路は、おばさん達によるアルティメットマンの悪口によって喧騒を取り戻した。 勝手に地球に来て暴れまわる、核より身近な脅威で迷惑なデカブツ…それがこのおばさん達の大好きな昼のニュースでの 人気キャスターの公式見解だった。 許せない…あんなにも彼は頑張っていると言うのに、お前ら汚い豚どもの子供を助けるために、本気で命を捨てようとしたと言うのに…。 巴は怒りで顔が真っ赤になる…のを通り越して、顔が真っ白になっていた。 巴は一週間近くずっと光一と接してきた…そしてそうしているうちに彼の性格もだいぶ把握してきていた。憧れのヒーロー、アルティメット マンは酷く人間くさくて、とてもいい奴で…そして、冷たい人間達の仕打ちに対して酷く心を痛めていることもよく解ってきた。 最初はそんな彼の支えになれるという満足感と、淡い恋心が満たされていく感覚に喜び…そして次第に彼の受けた仕打ちに気づくにつれて 世間一般のアルティメットマンを嫌うものたちが許せなくなってきた。 …人類の全滅を世界に対して叫んだ異次元の化け物を、頼んだわけでもないのに毎日休みもせずに倒してくれる、謙虚で、やさしくて… そして唯一の存在に対してここまで彼らは侮蔑の言葉を浴びせる…そんな人間達が許せなかった。 「ねえ、おねえちゃん…お姉ちゃんはアルティメットマンの…友達なの」 怒りに肩を震わせる巴に対して、先ほど助けられた少年がそう聞いてきた。 「うん、そうだよお…お姉ちゃんはね…アルティメットマンの恋人なんだよ」 空ろな目で巴はそう答えた。 255 :リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] :2007/12/19(水) 02 13 08 ID lUt+bHho 炸裂超人アルティメットマン 第二話 気をつけろ!そのサンタは本物か? 「…もしも次に会ったら、ありがとうって、皆言ってたって…言ってくれるかな?僕達…お母さん達は皆ああ 言ってるけど…すごく感謝してるって…アルティメットマンの事が大好きだから、頑張って欲しいって…」 「うん、でも大丈夫だよ…きっとアルティメットマンも、そういってくれる人がいるから、この戦いを頑張れるんだから…」 巴は笑顔で子供を安心させる、その言葉に安心したのか、子供達は喜ぶと手を振って母親の元に帰っていった。 「いい子達だな…でも、あの子達の親はどうしようもないんだよねぇ…だったらきっと、あの子達も将来ああなるよねえ… だったら、処分しなきゃ…」 濁った眼で巴は笑う、そして近くでアルティメットマンの悪口を繰り返すおばさんを見つけると、そのおばさんの頬を思いっきり叩いた。 ヒステリックに対応して掴みかかるおばさんに対して、巴はそれを軽くいなすと呟いた。 「あんた、巨獣より性格悪いよねえ…どうせ今日も暇で暇でここに来て、自分より見下せる相手が欲しいから…あの人の悪口言うんでしょ …今は許すけど、今意外はないよ」 そう言うと同時に、まるで獣のような目でおばさんをにらんだ、ひるんだおばさんが逃げ出すと、巴は空中をにらんだ…その瞳はまるでガラス 玉のように透明な色合いを放っていた。 「あと六匹か…意外にはやいなあ…それにしてもあの馬鹿…どうしてやろう?」 彼女には行わなければいけない使命があった、それは光一が戦う事と同じぐらい重要なものだと彼女には感じられた。 「やっぱり…邪魔者は、馬に蹴られて死ななきゃ、ね…うふふ、ははははは」 そんな言葉を呟きながら彼女の見上げる空は、気持ち悪いくらいに青かった。 256 :リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] :2007/12/19(水) 02 15 38 ID lUt+bHho 炸裂超人アルティメットマン 第二話 気をつけろ!そのサンタは本物か? 「オアアアアー!!!アルティメット!!タイフーン!!」 「だから聞かないといっているでしょうがああ!!」 ところ変わって吊下市郊外の山林、適の巨獣に対してアルティメットマンは珍しく苦戦していた 敵の巨獣はこちらが風で攻撃すれば体から羽を生やして空に逃げ、炎で追い込めば水を出して攻撃をカウンターしてくる いうなれば変身する巨獣…そのような戦法で徐々にこちらを追い詰めているのだ。 「ホアアア!!!」「デアア!!?アーッツ!!」 翼を生やした巨獣は風の力を生かして一気にアルティメットマスクに体当たりを食らわせた、衝撃で吹き飛ばされた上に アバラがぎしぎしと傷むが、それでも構わずにジャベリンを召還すると、それを槍代わりにして敵に突進した。 「ウオアアア!!」「無駄アアア!!」 敵は一瞬で翼を巨大な十手のような武器に変化させる、ジャベリンを一気にへし折る気なのだろう。 それを狙ってか、アルティメットマン刺突するとみせかけてジャベリンを巨獣の腕めがけて投げつけた、そしてひるんだ隙に 顔面めがけて指二本での目潰しを放つ。 どしゅ!!という音と共に巨獣の目がつぶれ、巨獣が絶叫と共に倒れこんだその瞬間、突然アルティメットマンの頭の中に声が響いた。 (動くな) 少女のような、それでいて凛とした声を聞いた瞬間、アルティメットマスクの体は動かなくなる。 (まずい、何とかしなくては…) そう考えたとき、足元の巨獣が叫びだした。 「ひいい!!お、お許しを!!総帥さまあ!!!」 目の前の脅威ではない何かにおびえたような声で、立方体のような巨獣は叫んだ、そしてひときわ叫ぶと同時に、どしゅ!!と血飛沫 を飛ばして巨獣の体はバラバラになった。 巨獣の体は、内側から無数に生えたウニの棘のような物体で全身を刺し貫かれていた。 (…なんだ一体?粛清か何かか?) 全く釈然としない光景、しかも敵は総帥と叫んで死んだと来ている…親父が死んだとき、一緒に倒した裏次元総帥が生きていたとか そんな感じなのだろうか?しかしそうなるとここ数年のまるで目的の無いままに暴れまわる巨獣は一体なんだったのか…あるいは裏次元で 新たな権力が発生して、こいつのような上級クラスが送り込まれてきたのか…まるで釈然としないまま、アルティメットマスクは巨獣の死体を焼却した。 「あ、お帰りなさい光一さん、お風呂沸いてますよ?それともご飯がいいですか…」 「あ、じゃあ先にお風呂に入ろうかなあ…それから今日はごめんね」 「いいですって、あんまり細かい事を気にしてるとはげちゃいますよ?」 深夜、疲れ気味でアパートに帰ってきた光一を、巴はまるで本物の家族のように温かく迎えてくれた、母親がいるってこういうことなのかなあ…そんな ことを考えながら光一は風呂に向かう、巴はそれを笑顔で見送り、バスタオルなどの用意をすると…部屋の隅に置かれたノートに眼をやった。 「…ふう、気づかれなかったみたいね…」 ノートに書かれたのは吊下市の略式地図だった、そしてその地図上には…いくつかの、小さな穴がコンパスであけられていた、 そして最も多く穴の開けられた部分は、吊下市の山間部…今日、巨獣が謎の死を遂げた場所だった。 (動くな)(彼を邪魔したものには、死を与える)その付近にはマジックでそんなことが書かれている、数分ほど それを眺めた巴は、ポケットから赤いマジックを取り出すと、街の各所煮に次々と丸を書き込み、そして今度は黒い マジックで文字を書き始めた。 「あと六体もいるんだから…少しは彼の住みやすい世界に出来るよね…ふふふ…」 何かを書き込んでいく巴の瞳は空ろで、それでいてとても楽しそうな表情をしていた。 第二話 END